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リトルヘブン
山形県朝日町
日の出前、まだ人影の見えない椹平(くぬぎだいら)の棚田に冷気が流れる。日が昇ると、一斉に田植えが始まった。
 
田んぼの夜が明ける。清らかで美しく、力に満ちた朝だ。
空に光があふれ、町が動き始める。そろそろ子どもも起き出す時間。
夜明けの水国、山形県朝日町を歩いた。
 
東北アルプスの東麓、朝日町
山あいの細長い盆地特有の内陸性気候。夏はフェーン現象で国内でも屈指の猛暑と なり、時にはバラバラと大きな雹(ひょう)が降ることがあるという。冬ともなれば町有の除雪車が出動する 豪雪地帯だ。
「んだ。今年の雪はすごがっだ。リンゴの枝が雪の重みで折れてよ。樹が根っこごと傾いだり、根元から 太い幹がボキッと折れだのも、いっぺあってな」と、椹平棚田保全活動推進委員会会長の志藤勝幸さん(57) は語る。
山形県のほぼ中央、最上川中流域に位置する朝日町。西に東北アルプスと呼ばれる飯豊(いいべ)山脈や 朝日連峰、北には吾妻連峰、東に蔵王や神室(かむろ)山地、白鷹(しろたか)山地などの大きな山々が 連なり、町域の真ん中を流れる最上川に沿う河岸段丘に田んぼや果樹園、集落が広がっている。
根雪も溶け、リンゴ畑が満開の白い花で包まれた5月、田んぼではまだ冷たい雪解け水を引き入れて一家総出 の田植えが行われた。6月後半、イネはぐんぐん上がる気温とともに分けつ期を迎えていた。 オタマジャクシの成長をそっと隠すように、田んぼをイネの葉が覆い尽くすのも もうすぐだ。

アマガエル
棚田の畦(あぜ)に、
冬眠から覚めたばかりのアマガエル
人口 8,685人。町域の4分の3は山地の朝日町。田んぼはそのほとんどが棚田なのだが、能中(のうじゅう) 地区には1999年、日本棚田百選に選ばれた『椹平(くぬぎだいら)の棚田』がある。ゆるやかにうねる河岸段丘 の等高線に沿って扇状に開けた14ヘクタール、約140枚の田んぼ。その先は道を隔てて最上川。川向こうには 町の中心街や丘陵地のリンゴ畑。さらにその奥に朝日がのぼる白鷹山地の山並み、という壮大な景観が 広がっている。
「棚田と言われたときはよ、迷惑だと思っだな。棚田ってよ、一枚一枚の田が小さく、段差があって、 大変なとこでよ、イメージ悪いわけだ。おれらのとこはトラクターや田植機は入るし大型のコンバインも入る。 こんなもん、棚田と言うだか。このへん、みんな棚田だけんど、減反で草だらけのとこが多ぐでな。 まとまったところがなかったんだべ」と志藤さん。

「それまで普通の田んぼだったのが、人が見に来るようになって、眺めるのにちょうどいいとこさある 一本松公園から見下ろすわけだ。上から見られると恥ずかしい。話し合ったり強制しているわけではない けんどもよ。いい格好しだいというか、何となくみんな、一生懸命手入れするようになったな」
イネの葉をそよがせて、約100メートル下の最上川から涼しい風が吹き上げてくる。椹平の棚田は今、 風通し良くしてイネを害虫から守るため、畦(あぜ)の草刈りのまっ最中だ。
朝日町

文・伊藤 直枝 写真・芥川 仁

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