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二度いもの油炒め
   「油炒めは孫の好物でな。手っとりばやくできるん。うでて(茹でて)皮をむき、あらけた(炒めた)イモに甘味噌をつけるだけ。世話ないもんな。皮をむいたら、ほける(割れる)んで私は片栗粉をつけるら」。南アルプスが見える台所に立って、調理する手をいっときも休めずに胡桃澤ケサミさん(71)。
 「二度いも」は、標高約1000mの尾根に広がる下栗集落で、昔から作られてきた在来種のジャガイモである。春と秋に植え付ければ年に2回収穫できるから「二度いも」だ。大きさは、丸ごと口に入るミニサイズ。陽当たりと水はけのいい土に育つので、小粒でも中身はギュッと締まっている。「今は年に2回は作らんな。3月に植えて7月初めに掘り、あとはソバを播く」。
 扱いやすく見栄えがする小ぶりのイモは収穫量の6割程度。大小さまざまなイモのサイズを揃えて保存し、大きいイモは煮物やポテトサラダに使う。
 「鍋いっぱいのイモを塩を入れずにうでるよ。ザルで1週間はもつからな。少しずつ味を変えて食べるら」。

 
アレンジは自由自在。『油炒め』のほか、エゴマ味噌を塗って焼く『いも田楽』もよく作る。エゴマはシソ科の植物。種子は芥子粒のように丸くて小さく、油分をたっぷり含んでいる。炒ってすりつぶし、味噌、砂糖、みりんを合わせたのがエゴマ味噌だ。茹でたイモの皮をむくと味噌のつきが悪いから、皮つきのまま使う。自家栽培のエゴマは種子が少ししか取れない貴重品。
 茹でたイモの皮をむき、直火で焼きながらネギ味噌をつけて食べるのが『生地焼き』。ネギ味噌は、味噌と刻みネギと削り節を合わせるだけで甘みはつけない。
 「掘りたては皮がくるんくるんむけるら。だんだん皮がむけにくくなり、冬前にはシワが寄って芽も出る。それでも味が変わらんのが、ここのイモの特徴だよ。一冬を越したほうが糖度が高くなって甘くなるら。生(なま)でも食べられるくらいだ」
 生地焼きをつまみながら、ご主人の益夫さん(75)が懐かしそうに語る。「昔はな。長い竹の串に刺し、囲炉裏で焼いて主食がわりに食ったもんだ。生味噌をつけてな。コメが穫れんから主食は麦めしか雑穀めし。腹がふくれるイモは、めしの不足を補う副食だった」。
 「これも食べていきなよ」。さりげないケサミさんの言葉とともに『二度いもの春巻き』ができあがった。すりつぶしたイモに残り野菜、ちくわなどを刻んで混ぜ、春巻きの皮に包んで揚げたものだ。カリッと揚がった春巻きには、下栗の風や匂いがはち切れるほど包み込まれていた。

台所に立つ胡桃澤ケサミさん

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