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エッセイ 風土に寄り添う 長野県伊那谷は、中央アルプスと南アルプスという日本を代表する山脈に挟まれた広大な河岸段丘地帯だ。少年時代からこの山里を故郷に育ってきたボクは、大自然のなかで数々の幼児体験をつんできた。そして、現在でもここに住み「自然界の報道写真家」としてあらゆる自然の変化をみつめている。
 この伊那谷で、気になるできごとが最近起きている。ツキノワグマが増えてきていることだ。
 ツキノワグマは森の支配者であり、昔から「山親父」ともよば
れて日本人の身近なところにいた。しかし、10年ほど前まではそれほど数の多い動物ではなかった。ところが、平成時代をむかえてから激増してきているのである。
 ボクは「無人撮影カメラ」という方法を開発して「けもの道」の定点観測を始め、かれこれ30年のキャリアをもっている。それは山中に、数年間にわたって自動撮影の装置を置きっぱなしにして、そこを通過する野生動物たちを調べるという方法だ。
 この方法で、1982年から3年間5台のカメラを中央アルプス山麓に設置してみたが、このときはツキノワグマはたったの1枚しか撮影されなかった。ところが、2005年から同じ地域にデジタルカメラを設置してみると、これが驚くほどにツキノワグマを捉えているのである。その数は昨年(2006)だけでも20頭強のツキノワグマを記録した。
 20年余の間にこれほどまでにツキノワグマが増えたのを見ただけでも、伊那谷の自然も確実に変化していることがわかる。ドングリの不作だけでは語れない自然環境の変化があり、クマを増やす何かの要因がはたらいていることが実感できるのである。こうした変化に地元の人々はほとんど気づいていないので、ボクは自然界からのメッセンジャーとして、さらに自然と対話する努力をしながら、世の中に伝えていかなければならないと思っている。

みやざき まなぶ
1949年 長野県生まれ。
日本写真協会「新人賞」「年度賞」、土門拳賞、講談社出版文化賞など受賞。日本写真家協会会員。
〈 写真集・著書〉 
「けもの道」「鷲と鷹」「フクロウ」「死」「アニマル黙示録」「ツキノワグマ」など、約50冊。
公式ホームページ http://www.owlet.net/

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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