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リトルヘブン
いま、三瀬村で

午後3時半「スマイル2号」が三瀬小学校の玄関口に停車する。
「きんしゃったよー」「急げー」。お揃いの黄色い帽子を被った子供たちが、ランドセルをカタカタ鳴らしながら校舎から走り出てくる。
その日は8人が乗り込んだ。 井手野地区から通う徳川翔太(しょうた)くん(7)、福島未侑(みゆ)ちゃん(6)、小野寺珠希(たまき)ちゃん(7)も毎日このバスに乗って帰る。
三瀬村には、市立国民健康保健三瀬診療所を基点として、村の西部を走る「さがんバス」と東部を走る「スマイル2号」の無料巡回バスがある。一日5便ずつのこのバスが、住民の診療所通いや買い物を助け、夕方は、子供たちのスクールバスも兼ねるのだ。



バスが停まった。 「おばあさんがきんしゃった」と誰かが言い、前の列の子が荷物を寄せて席を空けた。 みんな学校であった「やまっこ祭」のことを喋りたくてたまらない。 隣に座った年配の女性に、5年生のお化け屋敷の話や6年生のクラスで食べたゼリーの話をする。
「珠希ちゃん、お父さんが迎えに来とんよ」、運転手の藤井忠郁(ただいく)さん(69)が賑やかな後部席に声をかけた。 「また明日ね」。お父さんの軽トラックに乗って、珠希ちゃんが大きく手をふった。

リトルヘブン余禄
三瀬村井手野集落入口の細い坂道を上った所に、三瀬小学校藤原分校が二年前まであった。
資料によると、明治三十九年に児童数六十三名で一旦設置されたが、翌年には休校になっている。敗戦間近の昭和十八年に再開され、平成十七年の閉校まで六十三年間、一年生から四年生まで地域の二六○名が学んだ。
三方を小高い山に囲まれた分校跡の小さな広場に立つと、老人クラブの徳川善美さん(72)と井手野徳次さん(71)が公民館で歌ってくれた藤原分校校歌が、聞こえてくるように思えた。

 雪深き 脊振のふもと
 朝日受け光る山並み
 真白き息を もやに弾ませ
 今日もはつらつ元気な仲間
 力の限り 飛びはねて
 ぼくら分校 藤原分校

給食の脱脂粉乳を飲めなくて泣いた子供たちも、今では分校で学んだ井手野の温かい思い出が、都会暮らしの支えとなっていることだろう。
(リトルヘブン編集室:芥川 仁)

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