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家宝の古文書を披露してくれる山内明男さんと君江さん夫妻

「まんず楽しかったっけ。今でも踊ってる夢見るもんなあ」。
山内君江さん(76)が見せてくれたアルバムには、口ひげを付けて黄色い着物を羽織った水戸黄門の姿があった。 横には代官と町娘もいる。
「おらが、水戸黄門サなった時の写真だ。 おれ、膝悪くしたんだども、水戸黄門踊りなら動きが少ねェから大丈夫だって先生が言ってな、そいで踊ったのよ」。
君江さんにとって、忘れられない最後の舞台が、十三年前の水戸黄門だった。 夏祭りや敬老会など、この地域の女性たちが踊りを披露する機会は多いのだ。

最初この地に居着いた人が乗ってきた馬に使って
いたと伝わる轡(くつわ)を見せる明男さん
最初この地に居着いた人が乗ってきた馬に使って いたと伝わる轡(くつわ)を見せる明男さん

干支が絵で描かれている古文書には、歴史上の
出来事が記載され「秀吉」などの名前も出てくる
干支が絵で描かれている古文書には、歴史上の 出来事が記載され「秀吉」などの名前も出てくる
山谷川目地区のことを知りたければ、この人のところへ行け、と言われてやってきた。 君江さんが十五歳でお嫁にきた山内家の祖先が、この地区で住居を構えた最初の人と言われる。 山谷川目楽友会(らくゆうかい)の会長をしている夫の明男さん(77)は、それが、いつの時代だったかはわからないとしながら、 「その人サ、乗って来たっつう馬の轡(くつわ)があるんだァ」と、代々伝わる山内家の宝を出してきてくれた。 大きな轡を、年に一度は出してきて神棚に祀るのだという。

「秀吉」など歴史上の人物も登場する古文書がある中で、煤(すす)けて端が破けている和綴(わと)じの本が目に入った。
「こりゃあ、男女の相性を見る本だ」。ちょっと照れくさそうに君江さんが言う。
「私たちの縁のとこ見るとさ、子供がいっぱいで、女中もいてさ、夫婦で酒飲んだりしてる絵があるのよ。 おじいさん(明男さんの父)が、これ見て私サ選んだんだわ」
「昔は、親に従うんが当たり前だったな」。
明男さんも言い、笑い声が、七人四世代が暮らす大きな家に響いた。

山谷川目地区

9月末に薪ストーブに火を入れた
9月末に薪ストーブに火を入れた
山内家の屋号は「山谷」という。地名の由来ともなった「川目」という苗字の家も集落にあるという。 馬の轡から、山谷川目地区の始まりを想像する。言葉で残されていない無名の人々の歴史だけに、あれこれと思いを巡らせるのは楽しい。

文・阿部直美  写真・芥川仁

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