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リトルヘブン
「この季節、週に何べんも作るわねえ」。中学生の孫ふたりも好きだとい う蕗の煮物。西川康子さん(66)が、包丁を片手に家のまわりを一周すれば、その日食べる蕗は手に入る。「赤蕗はクセが強いから、本当は白蕗の方がいいんだけどね」。茎の色の違いを見せてくれながら、その日は、赤蕗と白蕗を半分ずつ30本余りを取った。「今晩すぐに食べられるわけじゃないのよ。この後すぐに、10分くらい湯がいて皮むいて、ひと晩水に漬けとくの」翌日訪ねてみると、蕗は鮮やかな若草色になっていた。「最初は、出がらしのコーヒーみたいなアクが出るから、水は3度かえたのよ」。裏山の雑木の陰に自生する蕗は、野生児のようなもの。しっかりとアク抜きが必要だ。5センチほどに切りそろえた蕗を、康子さんが作り置きしている自家製出汁で煮詰めていく。出汁は、蕗が隠れるくらいのひたひたが良い。  
昆布と椎茸を煮出して、粉末のカツオだし、昆布だし、コンソメの素、醤油、みりんを入れて作る特製の自家製出汁は、家族みんなが仕事を持って忙しい西川家の強い味方になっている。「夕食の時はね、それ急げ、のかけ声で全員が動くの。孫たちがお茶碗出して、お父さんは焼酎を一杯やりながら、山椒味噌をすり鉢でゴリゴリやって、そりゃあ賑やかよ」。蕗を煮ている隣で、ワラビと椎茸がそれぞれ火にかけられていた。昨日、夫の征吾さん(65)が山でワラビを採ってきたので、蕗と同じ要領で湯がいて、ひと晩水に漬けておいたという。「この出汁で、煮ちゃおうと思って」。程良く煮詰まって、蕗がふっくらしたら完成だ。  
さっそくいただくと、シャッキリ歯ごたえがあって薄味の出汁が染み出した。野の香りが広がる。同じ出汁で煮たワラビは、ほんのり苦味があって、キシッと音を立てて口の中を滑る。「うちの孫たちがね、俺らが煮物を作って見せたかったのにって、残念がってたのよ」。家の味の 取材が話題となった、昨夜の賑やかな食卓の様子が思い浮かんだ。康子さんを「やこばあちゃん」と親しげに呼ぶ野球少年たちの腕前も、ぜひ見せてほしかった。
(左から)大塚鶴一さん、渡辺きみえさん、
緒方敦子さん、 桜井洋子さん、二見峯子さん
家の裏山で材料のフキを採る西川康子さん
 
 
 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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