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リトルヘブン
子どもたちは野菜の苗を手にすると、どこに何を植えるか、みんなで考え始めた。「胡瓜は蔓が伸びるけえ、後ろだ」「うん、陰になっちゃうもんね」「スイカとキャベツは地面になるから、前の方」。テキパキと、苗を置いていく。あっという間に、茄子、トマト、ピーマン、キャベツ、胡瓜、スイカの苗が、皆で協力して被せたマルチの上に仲良く並んだ。「私が、朝、水をあげるよ」。5年生の中村穂乃花さんが、通学の時に水やりをすると言う。  
八幡小学校は、全校児童が9人だ。今日は、生活の授業で3年生以上5人が参加した。尾崎正臣先生(34)が、まとめの言葉。「皆さんが昨日、畝の上に被せたマルチは、風で飛んじゃいました。今日、やり直しましたね。一生懸命やっても、報われないことはあります。でも、そんな時はきちんとやり直せばいいんですよ」「は〜い」。作業を終えて、全員が感想を発表する。「昨日はマルチを被せただけで疲れたけど、今日はいっぱい仕事をしても疲れてないよね」。どの子も満足そうに頷きあった。
読者からの便り
私は、四十年も前に日向市駅から就職列車に乗って故郷を離れました。私の家では餅つきの時に、最後の臼で、蒸かした芋を搗き込んで、やわらかいアン入りのネリクリを父が作ってくれました。確か「ボタモチ」と言った気がします。母は、今年九十歳になり日向で健在です。私は、なかなか帰省できずに親不孝を重ねていますが、今から母に手紙を書くつもりです。
愛知県名古屋市 U・T
切り干し大根の甘い香り、焚き火にくべて焼けた唐イモに、ふぅふーと息を吹きかけて頬ばった。ミツバチのやさしい羽音や牛のムォーという鳴き声など、のどかさが耳に入った。掘りごたつで半身を温め、ショウガ入りの葛湯でお腹を温めた。泳ぎを覚えたのは澄みきった小川。山、空気、温かい人情。それからもう五十三年が経ってしまった。そして子どもらは都会に根を下ろした。もう元へは戻れない。田舎で味わった懐かしい想い出だけが、残っている。
福岡県福岡市 K・S
古くから受け継がれている各地の食物には、受け継がれる理由があると思います。それらを大切に思う心は失ってはいけないと思います。
大阪府大阪市 Y・K(54)


リトルヘブン余録
金糸銀糸の重厚な刺繍の龍が、背中で睨む衣装を身につけ、汗を飛ばし肩で息をする。中村英信さんが迫力ある「天神」の道眞を大きく舞っている。
▼彼の所属する「長尾組」は、団長の後藤洋治さん(40)を中心に、大太鼓の原田豊さん(48)と小太鼓の間処初信さん(48)が長老格として団を引っ張っている。
▼共演大会が近づくと、夕食後に週二回ほど、自前の稽古小屋で、実際の衣装を着けて本番さながらの稽古に励む。「振りを大きく、その役になりきって、堂々と舞わな」と、長老の指摘が飛ぶ。
▼小さい頃から親しんだ伝統芸能を引き継ぐ誇りと、幼い頃からの顔見知りが集う心地良さ。「長尾組」の稽古小屋には、今では無くなった若衆宿の匂いがあった。今年十一月、大歳神社の小祭りで神楽奉納の本舞台が待っている。
(リトルヘブン編集室:芥川 仁)
芥川 仁 オフィシャルサイト>>>

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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