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リトルヘブン
龍双ヶ滝は、今は無くなった東青集落の側から稗田川に流れ込んで落ちる
 村の若者衆が稗田川の上流に魚捕りに行くちゅうから、連れてってもろうたんだ。小学校三年生の夏だったかなあ。パンツ一枚で歩いてきて、暑くてフーフーしとったんが、龍双ヶ滝の近くに来たらまるで違う。川にかぶさるように、巨木が繁っとって、光の入らないトンネルですわ。水中メガネで足元をのぞきながら川の中を上ってくんだけど、年上のもんが「寒ないか」って声かけてくれてねえ。実際、暗いし寒いし。気持ち悪い所やなあって思いながら滝まで行くと、大きな岩の下に深くて底が見えんほどの淵があった。年上のもんが、潜ったんやな。先が三又になったヤスで、やみくもに突っついて、でっかい鱒を捕まえて出てきたんよ。それ見て、「もういっぺん行ってくる」ちゅうて、別の若いもんも淵に入って、また捕ってきた。下から見上げた滝もすごいなあって思うたけど、でっかい鱒にも驚いたねえ。
その時、もうひとつ不思議だったのは、川が突然消えていたんだわ。真っ暗で、行き止まり。よーく見たら、大きな岩があって、下の大穴から鉄砲水みたいな勢いで水が流れてきてた。岩が上流を堰き止めて、岩の下から水が噴き出しておったんじゃろ。道路を整備するために、火薬で岩を吹き飛ばした今じゃ想像がつかんけど。  捕まえた、でっかい鱒なあ。焼いて食べたんだろうけど、私ら子どもには声がかからなかったよなあ。
芝 政澄さん
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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