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リトルヘブン
5年生の山本遥(はるか)君がその日選んだのは、「別れの曲」(ショパン)だった。「別れって言葉から、静かな曲なのかなあって思って」。CDプレーヤーの音量をゆっくり上げていくと、離れたところで「オッケイ」と手が挙がる。遥君たち5人いる保健委員が、毎日交代で食事中に曲をかけ、ランチルームの扉の開け閉めをしている。  
池田第三小学校の全校生徒は22人だ。給食は、大きな窓から緑の木立の見えるランチルームで、先生も一緒に全員揃っていただく。今日の献立は、ご飯、牛乳、イワシの中華ソースかけ、はるさめの中華あえ、わかめスープ。イワシは尻尾まで全部食べるのが、約束だ。ご飯をのんびり口に運ぶ子がいる。ショパンが優しく流れる。あんまり静かなので驚いていると、「ごちそうさま」の後は、一変した。「野球が大好きや」「あたしは、ピアノが好き」「七夕飾りに、阪神の4番になれますようにって書いたんだ」。みんなに囲まれて、声が聞き取れない。
読者からの便り
ウスバシロチョウが、氷河期から舞う蝶とは驚きです。きっと、住民たちがやさしく見守ってきたからでしょう。ムラサキケマンも知りませんが、まだ、日本には生物、植物の宝庫があると知り、うれしくなりました。  
農作業のご苦労はさぞ大変でしょうが、自然と共存している皆さんにエールを送りたいです。
愛知県名古屋市 Y・S(63)
小学生の頃、凍ったタンポポの綿毛を足で蹴飛ばし、気が付いたら靴がびしょ濡れになって、指先が冷たくなっていた事を思い出しました。
福岡県福岡市 I・K(62)
西川康子さんの蕗の煮物を読んで、今は亡き母を思い出しました。母が摘んできた蕗を私が皮をむき、指にはアクが沢山ついていました。でも、蕗の煮物が大好きで、皮むきは、私の楽しみの一つでありました。
福岡市博多区 K・S(43)
花田植えを読み、子どもの頃を思い出します。昔の田舎の田植えは、朝早くから家族総出で大変でしたよね。田植えが終わり、ミョウガの葉でミョウガまんじゅうを作り、手伝って頂いた家へ配るのが楽しみでした。ミョウガの葉の香りがするまんじゅう。小さい頃の懐かしさがよみがえりました。
愛知県名古屋市 S・T(65)


リトルヘブン余録
池田第三小学校を訪ねた時のことだ。身長一八四センチの私を見て、低学年の子ども達が「おじさん、廊下の天井に手が届きますか」と聞く。廊下で飛び上がっているところに、溌剌とした長身の若者が二階から降りてきた。
▼子ども達は一斉に、その若者に駆け寄り、「林先生は天井に手が届きますか」と聞く。林晃平先生(25)が、「届くよ」とひょいと飛び上がる。易々と天井に手が届いた。子ども達は、「すごーい」と、目を輝かせて拍手。
▼「私は、ふるさとが大好き。大学は都会へ出ましたけど、早く田舎で暮らしたくて、卒業したらすぐ帰ってきました。池田町の輝く星になるんです」。教員採用が決まるまで、講師として地元の小学校で働く。
▼この世にまだ居ない子孫の喜ぶ顔を思い浮かべながら、一六〇年前に杉苗を植えた金見谷地区の先祖の心情と、「輝く星になる」と真っ直ぐに語る林晃平先生の姿が、時を越えて重なって見えた。
(リトルヘブン編集室:芥川 仁)
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