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リトルヘブン
畑屋中野の八幡神社鳥居の奧に娘子石がある。遠くに奧羽山脈が連なり、頂上が雪で覆われているのは真昼山
 むかーし昔、秋田の仙北の中野ってとこに、丑五郎って力持ちのわぎゃもん(若者)がおったけど、なんとなんと美男子だったけど、ひこがし(怠け者)でよ、毎日ブラブラ歩いて、ねぶったくなればごろっとねぶる生活してたぞの。
 その夜も歩いてると、いい匂いっこしてよ、ふいっと十六、七才の娘っ子現われて「風呂敷包み持ってけねんすか(持ってくれますか)」って聞くぞの。何ともめんこい娘っ子で丑五郎返事に困ってよ、何も言わねで包みを持ってやったども、娘っ子一歩二歩と歩きだしたぞの。

「なしてあんた、働かねなんすよ(働かないの)。一生懸命働けば、おらあんたの嫁っ子になってもええどもな」って言ったんだとしゃ。八幡様の鳥居の前で、「ちょっと用足してえ」ってその娘っ子、藪の中さ消えてしまってな、なんぼ待っても、出て来ねえぞな。東の空が明るくなって、ばっかくせえって思ってよ、鳥居の前に風呂敷包みさ置いて帰ったと。
  でも気になって戻ってみたらばよ、風呂敷包みさねっけぞの(なかったそうだ)。同じ大きさの石が、ねこっと(どっしり)あるぞの。その後、丑五郎の夢枕さ娘っ子現われてな、「真面目に働け」って言うんだとしゃ。丑五郎、見違えるほど働くわぎゃもんになってな、そこらで一番いい嫁っ子貰ったんだとしゃ。
 今も八幡様の境内に石あってな、娘子石って名前でな、昔は二十四貫(約一〇〇キログラム)、今は雨風にさらされて二十二貫(八三キログラム)。祭りの時には、わぎゃもんが我先にその石さ担いでよ、嫁っ子授かりますようにってお願いするんだとしゃ。子供のいねえ夫婦は、石を三回廻って拝めば子宝に恵まれるんだとしゃ。 

  とっぴんぱらりのぷー

語り部・高橋茂子さん(美郷民話の会会長)
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