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リトルヘブン
サルトリイバラの葉を摘みに行くところから、佐伯 ヤエノさんの柏餅作りは始まる。「柔らかい葉っぱ は餅にくっつきよる。色の濃い大きなのがええ」。 家の裏手にある杉山で、木に巻きつくサルトリイバ ラの葉をヤエノさんはクイッと器用に引っ張る。 「昔は、泥落としや盆っていやあ、ようけ作って風 通しのええ所にザルに入れて吊るしよったわ。昔っ から柏餅ちゅうたらこの葉を使いよった」。あっと いう間に40枚ほど集まった。
 「小豆は、はぁ昨日炊いちょった。火いつけたり 消したり、洗濯もんしたり、草取ったりで炊いたん じゃから一日がかりだ。鍋に4合ばかりの小豆を入 れて、最初に2回沸騰した湯を捨て、後は豆が柔ら こうなるまで炊くの。水は鍋の8分目。砂糖おおよ そ500g、ハチミツ大さじ3杯、塩ふたつまみ入れて 甘くして、ザルで濾(こ)したんがこれじゃ」。自 家製の大納言を炊いて裏濾(うらご)した餡(あ ん)は、しっとりと艶やかだ。もち米粉を小ぶりの お玉で10杯分ボウルに入れて、水600mlほどを注ぎ入 れて混ぜ合わせる。「掌(てのひら)に水をつけ ちょると餅がひっつかん。まずコロコロっと転がし てから掌に広げるんじゃが、周りを押して平らにす るんがええわ。餡子(あんこ)を包んで、はぁこれ でよし」。
佐伯ヤエノさんの「柏餅」
 
サルトリイバラの葉を摘むヤエノさん
2枚の葉で挟み込む。26個できた餅は、 重なり合わないように何度かに分けて蒸す。鮮やか な緑色でパリッとした葉が、瞬く間にしんなりとし た茶色になった。緑色の部分が消えれば、火が通っ た証拠。15分が目安だ。まだ温かいうちにひとつ頬 張る。搗(つ)きたて餅のようにねちっとしてい て、餡子がとろける。葉っぱの爽やかな野生の香り に、体も緩んでいくようだ。
 「私ら子どもん頃、母親が食紅を溶いてくれよっ て、『絵を描いちゃれ』ちゅうから、ウサギ描いた りしよったの」。赤の食紅を水で溶いて、ヤエノさ んは当時のように餅に模様をつけた。
 「私は〈おてんばやき〉のおばあさんじゃか ら」。水玉や渦巻き模様の柏餅が次々と蒸しあがっ て、ヤエノさんは悪戯っ子みたいに笑った。
 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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