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リトルヘブン
ふるさとの未来 大隅家4兄弟 / 太っとる鴨は美味しい
左から収君、草君、楽君

左から収君、草君、楽君

 大隈家4人兄弟の名前を初めて耳にした時、念仏かと思った。楽(がく)草(そう)連(れん)収(しゅう)。集落のお年寄りたちは、楽草連収と指を折りながら名を呼ぶ。
 「道でボール蹴っても、大声出しても何も言われんし、お帰りって皆が声をかけてくれよる」
 8年前、白石地区に引っ越してきた大隈さん一家は、鶏と合鴨を飼い、米や野菜を作る専業農家をしている。「兄いのカステラはおいしかよ」。収君(5)が言うと、「卵はいつもあるけん、おやつは自分で作りよる」と楽君(14)。彼は「うちは鴨もおるけん、鴨鍋が好き」と言う。「ちょっと残酷だけど、首ば物干し竿に下げてから、首筋の血管ば包丁で切って、ひっくり返して血ば全部垂らして、皮ば剥ぎやすいようにって、ポンプで体に空気を入れて膨らませよった」「太っとる鴨は美味しいけど、太っとらんのはちょっと固い」
 父親の捌きを見ていた草君(12)と楽君が、興奮気味に教えてくれた。4人兄弟は、食べる喜びを知っている。

読者からの便り
 あの丸っこい葉っぱを集めてくるのは、子どもの役目でした。「柏餅」と言うので、てっきりあの葉は、柏の葉だと思っていました。実際には「サルトリイバラ」なんですね。母が、小豆あんも手作りして何十個も作ってくれました。「幸せな子ども時代だったなあ」と、ふんわり暖かな気持ちになりました。
 山口県下関市 O・R(52)
 私の母は、明治三十五年生まれ。食事の時「お母さん、ご飯食べよ」と言うと、「母さんは後で食べるから先にお食べ」と…。十七号の「母親じゃけぇ」を懐かしく拝読しました。又、「動物や草木など口のきけないものは、神様だ」とも言っていました。
東京都江戸川区 A・N(69)
 小学校二年生の頃、スズメバチに十カ所ほど頭を刺されて…。田舎のことで医者にも行けず、渋柿の渋を塗って治したことを思い出しました。
愛知県名古屋市 I・U(77)
 リトルヘブンを読むと「住めば都」。人は自分の住んでいる所で、幸せを見つけることができると思えてきます。
岡山県岡山市 T・M(57)


リトルヘブン余録
 集落入口にある見晴らしの良い墓所の石垣に腰掛けて、婦人が遠くの空を眺めていた。「こげして、夕方は空を眺めておっとですたい。呑気で良かですよ」。後藤葉子さん(80)は、十四世帯の白石集落に生まれて、この集落に嫁いだ
▼「田舎の夜は淋しかですよ」と、ぽつりと言う。彼女は、夫を十年ほど前に亡くした。暗さの増す夕刻、独りで家に居るより、誰かが通りかかる集落の入口で、空を眺めている方が、落ち着くのかも知れない
▼「呑気で良かですよ」という言葉が、強がりにも聞こえる。しかし、それは街で暮らす者の考えること。彼女は、「白石集落以外の所で暮らすことは考えられない」そうだ。他の土地を知らない彼女にとっては、十四世帯が宇宙なのだ。「呑気で良かですよ」も「夜は淋しかですよ」も、自らが、空を見つめて引き受けているのだ
▼下井手用水の流れを確かめるため、田んぼの急斜面を下りた。夕陽が九州山地の陰に沈む。遠くで犬の鳴き声がする。近くからは大隈四兄弟の戯れる声が聞こえる。刻々と赤味を増す西の空。魚の形をした雲が、くっきりと浮いている。足元の繁みが闇の中に溶け込み始めた。僅かな時間だったが、宇宙と生命について考えている自分に気付いた。
 
(リトルヘブン編集室:芥川 仁)
芥川 仁 オフィシャルサイト>>>

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