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リトルヘブン

「りんごの花咲く前に遅霜」流れたろうの形で豊凶占う

氏子総代の大澤勝雄さん

流れたろうの形で豊凶を占う氏子総代の大澤勝雄さん

  • 田中つささん

    工房で炭俵を作る田中つささん

  • 仲良しの大澤きみさんと大澤ハキさん

    餅を搗いている傍で。仲良しの大澤きみさん(左)と大澤ハキさん

 かがり火近くの出店から湯気が立ち上る。「この汁っこ、何の肉だべ」。参拝者が鍋を覗き込む。「ウサギと馬っこだびょん。遠慮せず食えや」と、三上優一さん(69)。沢田の「ろうそくまつり」を実行委員会で支えようとした発起人だ。

ウサギと馬っこ、遠慮せず食えや

 「弘前市と合併して、相馬っつう名前はどんどん無ぐなっちまう。わが育った場所さ、子や孫らにも自慢したいもんな」。高齢化が進み沢田地区だけでは支えきれなくなった祭りを、旧相馬村の有志が支援する。岩屋堂へ上る雪道を照らす七百本のろうそく「雪ほたる」には、地域を守ろうとする願いが込められている。
 あんこ餅は好評ですぐに売り切れた。年明けから沢田集落の七十歳代女性五人で作った飾り物の「炭俵」も完売だ。田中つささん(78)は、炭俵作りメンバーの一人。「おいのだんなが、炭焼きしてたんだ。昔はさ、おなごも山さ行ったの。かんじきさ履いて、茅の俵ば二十枚くれえ持って山さ上がってよ、男が伐った木をソリっこで炭焼き窯まで引っ張ったんだびゃ」。手拭いで作った帽子が似合う小柄なつささんからは、男並の労働が想像できない。「今はよ、弁当さ持って集まって、みんなしてお喋りしながら手を動かすんが楽しくってよ」。つささんの顔がぱっと華やいだ。

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 前夜祭の翌日は、神明宮本祭が開催された。午前七時、大澤勝雄さん(76)が、岩屋堂で、昨夜のろうそくの灯りが残る岩肌を見つめていた。「りんごの花咲く前に遅霜があるな。台風もひとつ見える」。彼が氏子総代として、流れたろうの形で豊凶を占うようになって四十年になる。本祭の翌日、各戸から一人ずつ出席して祭りの片付けを終えると、種澤町内会長の改まった口調で会計報告があった。その後で、皆で酒を飲みながら、千二百人が訪れた「沢田ろうそくまつり」を振り返る。
 「んだば、明日からようやく家の雪下ろしだな」。種澤さんが安堵の表情で言う。つささんたちの炭俵作りも再開する。十世帯の沢田集落の、いつもの暮らしがまた始まる。

  • 「雪ほたる」

    神明宮下の斜面に700本のろうそくで灯る「雪ほたる」

  • 相馬地区沢田集落略図
 
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