薬師堂の境内で大きく枝を伸ばす逆杖の公孫樹
語り部 金谷 透さん(76) 愛媛県中山間ふるさと水と土指導員
遍路姿のお坊さんが接待の心に恩返し
奥内(おくうち)棚田の里の入口に「逆杖の公孫樹」と呼ばれる大きなイチョウの樹がある。
そばに建つ薬師堂とともに里人に信仰され、大切にされてきた老大樹にまつわる話を聞いた。
金谷透さん
だいぶ昔の話ですらい。800年とも1000年ともいう昔むかし、遊鶴羽(ゆずりは)の里に遍路姿のお坊さんが訪ねてきて、小さな百姓家に一夜の宿を借りたいと申されました。家の主がお接待の気持ちで快く承知したんで、お坊さんは旅で痛めた足腰を伸ばしてゆっくり休みなはったんですと。
あくる日、遊鶴羽に自生するイチョウの枝を杖にして、お坊さんは深い谷をおりなはったんと。 暮れやすい秋の日のことですけん、下の薬師堂あたりに着いた時はとっぷりと暮れて、「今晩は野宿しかないかな」と思いなはったんですと。ところが、かすかに灯りがもれる1軒の農家が目に入ったんですと。その家のばあばは、近所でも評判の信心深い人で、快く一夜の宿を貸し、精一杯のもてなしをしてあげたんと。
やさしいばあばに感激して、お坊さんは朝まで一睡もせずに一体の仏像を刻み、お礼にとばあばに差し出したそうです。出発にあたり、前日に使いなはったイチョウの杖を逆さまに刺して去られたんと。
ばあばは、仏像を守るために小さなお堂を建て、ねんごろにまつり続けたそうですらい。その堂が今の薬師堂になったと聞いとります。ばあばは朝夕祈り続けて幸せに長生きをし、最後の生(しょう)をとる時は楽に行きなはったと。
お坊さんは、一説ではお大師さんと慕われている弘法大師と伝えられています。刺された杖は、それから今まで千年近く成長を続け、今、わしらが見とる大樹になったんですらい。
ガニ炊き
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鬼北町大宿の棚田で野菜を作る
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株式会社 山田養蜂場
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