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薬草の香り「つつっこ」

トチノキの葉を解いて、ごま塩をのせた「つつっこ」
トチノキの葉を解いて、ごま塩をのせた「つつっこ」
「ちょっと葉っぱがこわい(硬い)けど、大丈夫 だんべえ」
岩田清忠さん(67)が庭へ出て、トチノキの葉を両手で抱えきれないほど採ってきた。 200枚はありそうな葉を、沢の水を引いた水道で妻の禮子さん(61)と手伝いに来てくれた近所の高橋よしのさん(79)が洗っていく。 小鹿野町の郷土料理「つつっこ」にトチノキの葉は欠かせない。
「葉が柔らかい6月に作るものなんですよ。昔は旧暦だったから、端午の節句にみんなで食べたんです」
禮子さんの「つつっこ」作りは、前の晩に小豆を水に浸しておくことから始まる。
「ふやかしておいた3合の小豆を、たっぷりの水で煮ます。途中で一回、しわ伸ばしにびっくり水を入れるといいわね。 もち米2kgは、研いだ後に2時間水につけておきます」。 茹でた小豆と水切りしたもち米を混ぜ合わせて、塩を小さじ1杯入れる。

「葉っぱは、2枚重ねで。おちょこで小豆入りのお米を一杯すくって葉っぱにのせて、端っこを折り合わせたら、ちょっとトントン。 水が入らないように中身を寄せるの。慣れちゃえばすぐよ」
禮子さんとよしのさんは、さすがに手早い。湿らせておいた稲藁で、グルグルっと巻いて縛れば出来上がりだ。
「全部、入るかしら。駄目かしら」
禮子さんが、沸騰した湯の中にひとつずつ沈めていく。 大鍋とはいえ75個ともなると、ぎゅうぎゅう詰めだ。
「余ったトチノキの葉を上に敷いちゃうの。その上に落とし蓋をのせるから、まんべんなく火が通るのよ」
グツグツ煮立った湯の中で、葉が揺らめく様子は何とも美しい。待つこと50分間、もち米が飴色に変わったのを確認して「つつっこ」は完成だ。
薪で焚いた大釜の中でグツグツと煮る
薪で焚いた大釜の中でグツグツと煮る

高橋よしのさん(左)と岩田禮子さん
高橋よしのさん(左)と岩田禮子さん
藁を解いて葉を1枚ずつ開く時、むわっと生あたたかい薬草のような香りが立ち上る。胡麻塩をふりかけていただく。 ほのかな苦味があって、自家製小豆の香りも広がる。
「つつっこを作ると、近所や子供たちに配るのよ。こんなにたくさん作っても、気づいたら自分の分はほとんどないの」
禮子さんの言葉に、よしのさんが頷く。自然の恵みのお裾分けが、郷土の味を支えている。

※岩田禮子さんの「レイ」は、「ネ豊」が正しいですが、表記上「禮」を使用させていただいております。

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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