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賽の洞窟「郷土愛だいね」と、三十キロの石背負う

ここなら、おまわりに見つかるっつうこともない。 「丁」「半」なんつって、岩の下で博打を打ってたんでしょうね。 片道一時間もかかる尾根の洞窟まで来てサイコロ振るなんて、昔の人は暇だいな。 向こうの尾根に、兵重岩っつう大きな岩があるんです。 博打でイカサマをした兵重って男を、あそこでつんまくって落としたっちゅう話です。こっからは、見えねえな。
この洞窟に名前をつけたんは私です。五年くらい前、「賽の洞窟」にしようって決めて、チンチンチンチン、ノミで石に名前を掘って、 ここまで背負ってきたんです。石は三十キロはあったいね。
「賽とは神佛の恩を感謝してむくいるの意」って説明に書いたけど、サイコロの「サイ」でもあらあね。 石を背負って登った時、子供やひ孫たちも一緒でね、途中、斜面が急で石が持ち上がんないっつう場所があったの。
「何のためにこんなことしてるんだい」って息子は不満げに言ってたけど、郷土愛だいね。 この山に登った人に喜んでもらえるんが、嬉しいの。

語り部 柴サキ善治さん
語り部 柴碕善治さん(84歳)

高校の時に石川啄木の詩に出会って、故郷っつうもんを考えるようになったんです。 「愛郷心に燃えて」なんて題で、弁論大会に出て喋ったくれえだからさ。この山の登山コースにある道標は、全部私が書いて立てました。 草を刈って道を整えて、ところどころにロープや鎖をつけたんです。「釜の沢五峰」の登山道は、私が六七歳の頃に作ったんです。
そういやあ、山道の道標ばっか作っててさ、うちの民宿の「長若山荘」って道標を作るのずっと忘れてたの。 お客さんが、うちを通り過ぎちゃったなんてことがあったなあ。

※柴碕善治さんの「サキ」は、「石竒」が正しいですが、表記上「碕」を使用させていただいております。

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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