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石橋秀子(いしばしひでこ)さんの「そばもち」
香りよく、
噛めば噛むほど素朴味

石橋秀子(いしばしひでこ)さん
「旧暦の12月20日にそばもち作って、神様サ、あげたの。その日のことを、いっぺェおろスって言ったんだ。何の神様だったっけねえ」。
石橋秀子さん(76)が、生地をこねながら言うと、
「山の神様は12日だし、えびす様は5日だ。えびす様んときゃ、尻尾のついた魚をあげたな」。
山内君江さん(76)も、一緒になって頭を捻って考える。 秀子さんと君江さんは、峠をひとつ越えた城内地区の出身だ。
「城内でもお隣同士、嫁に来た先でもお隣同士でサ、墓だって隣よ」。
今日は、秀子さんがそばもちを作るということで、蕎麦(そば)切り(蕎麦打ち)上手の君江さんが手伝いに来てくれたのだ。


「そば粉は茶碗で4杯くれェ、小麦粉は1杯半、はァ混ぜたから、熱湯を入れます。 450ccくれェかな、箸でかき混ぜてっから、手で揉んでサ、全体が湿ってきたら、 今度は、さっきより温い湯を足してみて、はァ、生地が耳たぶの柔らかさになったらええんだ。 200ccくれェ足したな」。
秀子さんは、しっとりまとまった生地を、親指と人差し指を使ってくるっと捻りとっていく。 ペタペタと叩いて平たくして割りばしに刺した「串焼き」が8個、餃子を作る要領で中に餡子(あんこ)を 詰めた半月形の「かまやき」が19個出来上がった。餡子は、前日2合ほどの小豆を200gの砂糖で煮たものだ。

串焼きは、鍋で10分ほど煮てから、砂糖を少量混ぜた味噌を塗ってグリルで両面をこんがり焼く。 かまやきは、グツグツの湯に入れて浮いてきたら煮えた証拠。サッと水にくぐらせて、ぬめりを取ったら出来上がりだ。
「私ら子供ん頃は、行事がいっぱいの旧暦の12月が楽しみだったの」、秀子さんが言う。 旧暦を使わなくなり、囲炉裏がなくなり、様々な風習も消えてしまった。

2種類のそばもちは、ともに弾力があって噛むほどに蕎麦の風味がした。 かまやきは、ぼそっとした表面としっとり甘い小豆の組み合わせが、何とも素朴だ。 いっぺェおろスの神様も、きっとこの素朴な味を恋しがっているに違いない。

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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