6.くらやみでの旅
よく朝、お日さまがまぶしくみつばちを照らしつけました。みつばちは、まぶしそうに目をぱちぱちさせて、お日さまをみつめました。
«あっ、いけない。ついねむってしまった。風がやけにすずしいな。ちかく森があるのでは»
みつばちは、元気よく飛び立ちました。
しばらく飛ぶと木々がおいしげる大きな森が、みつばちの前にあらわれました。でも、道は二つに分かれています。一本は、木々がならぶ大きな森、もう一本は、なにもない一本道です。
«もしかしたら、花があるかもしれない。よしきめた。行ってみよう»
みつばちは、勇気を出してまっ暗な森へ入って行きました。
森の中はとっても暗くて、花が咲いているのかもわかりません。鳥はぶきみに歌い、虫たちは木をかさかさ登って行きます。ちょうど中央あたりにきたでしょうか。まっ黒でこげた木のようでした。ひときわ高く大きな木です。でも、ウッドとはちがいます。とっても冷たくて、ぬくもりややさしさがすいとられるようでした。
と、とつぜん、大きな木が動きだしました。とたんに、静かだった森が急にさわがしくなりました。
«キキ〜ッバサバサ〜バッ»
急に目の前に大きな黒いかげがあらわれました。それは、一ぴきの山ねこでした。
«なにして来たニャ。ここはおまえみたいなやつがくるところじゃないニャ〜»
«キャッキャ〜キッ〜»
まるでみつばちを追い出そうとしているように、森の動物たちは鳴き出しました。
«あ、あの黄色の色で口が広がって、みつがたくさんある花はありませんか»
«そんな花があったらとっくにふまれてるニャ〜»
«まん中が開いていて、花びらが五つで黄色の花はある»
と、とつぜん大きな黒い木がみつばちをつかみあげました。山ねこがさけびました。
«ブラック様、なにをなさるので»
«おい、みつばち、おまえまさか光スイセンをとりにきたんじゃないだろうな»
«うっ、うんそうだよ。もしあるところを知っていたら教えてもらえませんか»
«虫のぶんざいで、とんでもないやつだ。おまえのほかにもとりにきたやつはたくさんいたよ。でも、たとえだれだろうと光スイセンをとるやつはゆるさん。なぜ、なぜおまえは光スイセンをねらうんだ»
«ぼくは、風の吹く方向のぎゃくの森から来たんだ。ぼくの森にもあなたのような大きくてりっぱな木、つまり森の神がいるんです。けれど、かみなりにうたれて体がこげてしまった。放っておけばやがかれてしまう。森の神を助けるには、二つの花が必要なんです»
«なるほど、その中の一つは光スイセンてわけだ。だが、光スイセンはやらん»
«どうしてそんなに光スイセンを大切にするの»
«もうなん年も昔のことさ。おれは昔光るほどきれいな木だった。だがあの時のできごとがおれをかえた。その日は朝から天気が悪かった。だいたいあらしになることはよそうしていた。だがあの時のあらしはふつうじゃなかった。おれの枝が飛びそうなくらいだったからな。おれはみんなを体のあなにひなんさせた。ところが下を見たらスイセンがさいてやがる。おれはなんだかそのスイセンがとても大切なものに感じた。手をのばしたら、かみなりが落ちやがった。見るもむざんにまっ黒こげだ。でも、そのかわりにスイセンは美しく咲きみだれているよ。森のやつはスイセンを光スイセンと呼ぶようになった。それとひきかえにおれは、いつの間にかブラックだ»
«でも、ブラックさんはスイセンを助けた。やさしさがあります。見た目はどうあれ心の中には花が咲いてるよ»
«へんなやつだ。おれをよく言うやつなんでおまえだけだ。だがおまえはいいやつだな。よし、とくべつに光スイセンをとることをゆるそう。大切にしてくれ»
«ありがとうブラックさん。それでその光スイセンはどこに咲いているの»
«おれの後ろの道をまっすぐ行け。きっとスイセン丘に着くさ»
みつばちは元気よくとびたちました。木々おいしげるけもの道を、みつばちは進んで行きました。と、とつぜん目のまえが光につつまれました。みつばちはぼうぜんとしました。まっ暗で、冷たい森に、こんなすばらしい場所があるなんて。みつばちの心の中で、なつかしい森のけしきがよみがえりました。
スイセン丘には、きらきらと光るスイセンがたくさん咲いていました。みつばちは空高く飛び上がり、ひときわ光りかがやいているスイセンをみつけました。
みつばちは、ふくろう博士にもらったカプセルに光スイセンの金色にかがやく花ふんを入れました。カプセルをバックに入れてもときた道をもどって、ブラックにさいごのあいさつをして、森を飛び立ちました。
«よし、これで残りは一つ。ウッドさんすぐ助けてあげるからね»
みつばちは、風に乗って夕ぐれの空へつぎの旅に出かけました。
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