翌朝、雪をかぶった南アルプスの稜線の輝きに息をのんだ。下栗の集落は、尾根に広がる山里、まさに遠山郷の山のてっぺんである。
下栗地区には、山肌にへばりつくように小さな9つの集落が点在している。人口は122人、52世帯。
標高950メートル、地区のほぼ中央に建つ小さな神社が、氏神様の下栗十五社大明神だ。霜月祭は、神仏をあがめまつり祈りをささげる神楽。神事の中心は「湯立て」である。神々に湯浴みしていただくために湯を立て、かまどの周りで神楽歌と舞いが奉納されるのだ。
日天のあと、月天(月の神)の湯切りを務めた祢宜(ねぎ)の仲井榮さん(72)は、たまたま祭の日と甥の葬儀が重なってしまった。
「本来ならば、不浄がかかっていて祭には加われんのよ。甥は病人として寝かせておいて、祭がすみしだい葬式だ」
霜月祭は、土地の歴史や連錦とした命のつながり、自然の中で生かされている命を確かめ合う。葬式や仕事よりも大切な、絆を結び直すための生命の祝祭なのである。 |

標高1000mの尾根に集落がある飯田市上村下栗地区
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