山田養蜂場 TOP
リトルヘブン


大水に流され
ここに漂着した神の
お告げは「来年も豊作」

玉里神社の鳥居に、新しいしめ縄が飾られる。 神木の銀杏にも、神殿と拝殿にも飾られる。 鳴瀬(なるせ)川のせせらぎが聞こえるここは、片側を崖に守られた静かな神域だ。

「玉里神社は、もとは一谷(いっこく)ちゅう所にあったばってん、大水で流されてここに流れ着いたちゅうことや」。
芹田文男さんが、そんな言い伝えを教えてくれた。
「ここにたまっちょったから、玉里神社かいのお」。
それを聞いていた人たちが一緒に笑った。
朝、皆でなった太いしめ縄を鳥居に飾る
朝、皆でなった太いしめ縄を鳥居に飾る

氏子が息をのんで見守るなか、「的射」神事で矢を射る神主
氏子が息をのんで見守るなか、
「的射」神事で矢を射る神主
玉里神社の神事を司るのは、隣の神埼市にある脊振神社の神主だ。 拝殿に住民が並んで座り、おごそかに神事が進められた。お祓いと祝詞の儀式がすむと、緊張の瞬間がやってくる。的射だ。

芹田康生さん(65)が、ねずみもちの木で作った弓を、神主に手渡す。 文男さんの的ふたつが拝殿入り口の両側に置かれると、人々は息をのんで行方を見守った。 わーっと歓声が二度起こる。 「来年も、豊作だな」と誰かの声がした。

祭りを担当する中西茶講内の女たちは、直会の席に腰を下ろすことはない。 拝殿に机が置かれると、料理を皆の前に並べていく。 笹の葉を敷いた上に水溶きの白玉粉を乗せた「しとぎ」も配られる。 かつては米粉だったというが、親指の先くらいの量を掌(てのひら)や皿の隅に乗せてもらい、口に入れる。 薄切り大根に大豆の水煮をのせただけの料理も、直会の席では必ず振る舞われることになっている。
自宅で準備した直会の料理を、軽バンの荷台で小分けする中西茶講内の婦人たち
自宅で準備した直会の料理を、
軽バンの荷台で小分けする中西茶講内の婦人たち

「つうわたし」で飲めない御神酒の盃を空けようと、顔をしかめる徳川義美さん
「つうわたし」で飲めない御神酒の盃を空けようと、
顔をしかめる徳川義美さん
「次は西だ」という声が上がって、徳川義美(72)さんの盃に御神酒が注がれた。 今年の祭り当番の隣組がまず盃をあけ、続いて来年当番の茶講内に住む徳川さんが盃をあける。 「つうわたし」と呼ばれる儀式だ。

「十二月もまた、玉里神社で祭りがあるっちゃ。今日のは米の収穫の祭り。十二月のは野菜も大豆も全部ひっくるめての祭りや」。
三瀬村老人クラブ井手野支部会長の井手野徳次さん(71)が嬉しそうに言った。 山間の小さな集落は、祭りのたびに氏子同士の絆を固くする。 これまでもそうだったし、これからも変わらない。

文・阿部直美 写真・芥川 仁

「脊振山系・三瀬村井手野」1 TOP  1  2  3  4  5  6  7 「かけ和え」

発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori  Haedline:Anabuki Fumio