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時桜(ときざくら)
新谷 尚紀(しんたに たかのり)
民俗学者。1948年広島県生まれ。国立歴史民俗博物館 研究部 教授。
総合研究大学院大学 文化科学研究科 教授。社会学博士(慶應義塾大学)。
1971年 早稲田大学第一文学部史学科卒業。
1977年 同大学院文学研究科史学専攻博士後期過程単位取得

■主要著書  1986年 『生と死の民俗史』木耳社 。
1987年『ケガレからカミへ』木耳社 (新装版 岩田書店 1997年)。
1991年 『両墓制と他界観』吉川弘文館 。
2000年『神々の原像〜祭祀の小宇宙〜』吉川弘文館。
2003年 『日本人はなぜ賽銭を投げるのか 民俗信仰を読み解く』文藝春秋。
2005年『柳田民俗学の継承と発展〜その視点と方法〜』吉川弘文館。
2008年『ブルターニュのパルドン祭り〜日本民俗学のフランス調査〜』悠書館(共著)。
2009年『お葬式〜死と慰霊の日本史〜』吉川弘文館。
2009年『伊勢神宮と出雲大社〜「日本」と「天皇」の誕生〜』講談社選書メチエ。
今年も花田植えの季節がやってきました。故郷の思い出といえば、やはり春は花田植え、夏は色鮮やかな盆の灯籠、秋はお宮の祭りと刺身のマンサクの味、そして神楽です。冬は大雪が降りよく学校も休みになりました。のちに三八豪雪と呼ばれましたが、昭和三八年度の豪雪はたいへんなものでした。元大朝町の新庄学園に通っていた私たちは中学三年生でしたが、バスが不通となり中山峠を越えて元千代田町の蔵迫へ、さらには八重や壬生まで夕闇の迫る中をとぼとぼとみんなで歩いて帰ったこともありました。  
昭和四二年に黒いかばん一つを手に東京に出てきてから、もう四〇年以上が経ちました。農家の子どものくせに農業がきらいで、好きな研究ができる学者になりたいというのが夢でした。曲がりなりにも何とか希望が実現し、現在は柳田國男が創始した日本民俗学という学問を専門とする仕事に就いています。  
その民俗学というのは、農業や漁業などさまざまな生業の中に伝えられている技能や知恵、また家族や村落の運営のしくみ、また神社の祭礼や年中行事や冠婚葬祭などさまざまな行事や儀礼の中に伝えられている信仰心や喜びや感動などについて研究する学問です。時代の移り変わりによってそれらの伝承がどのように変化してきているかにも注目します。  
昭和三〇年代から四〇年代の高度経済成長は、日本人の生活をその根底から大きく変えました。牛馬を使って田んぼを耕し、おおぜいで田植えをしていた姿はもう夢のようです。しかしなぜか、そんな昔の田植えの姿を芸能化しながら、中国山地のいくつかの村ではいまも伝えています。もう牛さえもいやがる泥田へ、人間がわざわざ入り、昔ながらの囃子と歌とともに、華やかな田植え絵巻が演じられるのです。人間とはそもそも失われていくものに郷愁をいだく存在なのでしょうか。私も都会の便利な生活の中にありながら、懐かしく思い出されるのは、いやいや手伝った子どものころの田植えの思い出です。 
(写真は、今年5月10日に行われた大朝の花田植え)
 
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