屋敷にある小さな菜園で、藤田忠治さん(67)が、青い実のトマトに、カラス除けの網を掛けていた。普段は福井市内に住んでいるが、「今年四月に父を亡くしてのう、先祖は守らなあかん」と、週二日は、おむすびを持って生まれ育った金見谷の我が家に帰ってくる。 「冬来てみい、冬の方が景色がいいと思うどのぉ、真っ白で。仕事はできんよ、何にも。囲炉裏に居るだけでぇ、仕事なんてせんね」
墓のまわり、神社の石段横、集落から見える全ての杉の幹。測量士によって巻かれたピンク色のビニールテープが、やがてこの土地がダムにのみ込まれることになると、静かに物語っている。藤田さんの「冬来てみい」の言葉に、消えてしまうふるさとに対する愛着が滲んでいた。
マーフィは、行方不明になって四日目の夕方、遠く離れた道路上で見つかり、キクエさんのもとへ無事に帰ってきたという。
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カラス避けの網を掛ける藤田忠治さん |
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藤田キクエさんと田中マツノさんが、
林道に座り込んで何やら世間話 |
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