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リトルヘブン
「おばちゃんのウド、見に行くかい」。藤田キクエさん(81)が連れて行ってくれたのは、大きな葉を茂らせて背丈よりも伸びているウドの畑だった。収穫時期が過ぎ、花芽がついている。キクエさんは毎年、樽いっぱいのウドの塩漬けを作る。「ドンっと塩入れて、色を良くするために、小ぬかをちいっと加えて重石で押すんだけど、この加減が大事だよ。塩が少ねえと、料理する時にどべっとちぎれるんだわ」。近所の江端喜代子さん(77)もやって来て、今日は塩漬けのウドを使った煮しめを作るという。  
「塩抜きは、昨日のうちにしたんだわ。水を入れた鍋ん中で、いっぺんぐらっと煮立たしてから、水を足して3時間置いとくんだ。アクが出るから水替えて、くたっとしてきたら、縦3、4本に割くの。そっからまたアクが出るもんだから、水に漬けとくんだ」。塩抜きをしたウドは、料理しやすいように、手首の太さほどの分量で結わえてあった。紐がわりに使うのも、ウドだ。キクエさん曰く「塩がガリンと効いた」。ウドは、腰が強くて引っ張っても跳ね返す。8束のウドは、「ひちゃひちゃっとした水加減」で煮る。「大匙一杯の本だしと、酒。そうさねえ、酒はトクトクトクッと3回音が出るくれえ入れるかな」。一升瓶をそのまま傾け、キクエさんが大胆に酒を注ぐ。「砂糖を大匙1杯半と氷砂糖を片手に一杯。氷砂糖は、おとなしい甘みがあるんだよ。醤油も、酒と同じくらいにトクトクトクだ。隠し味にサラダ油を大匙1杯と、塩を少し」。30分程煮て、出来上がった。
地区の集まりにキクエさんのウドの煮しめを出すと、「こっち廻してくれ」と奪い合いになるそうだ。ほろ苦く、ウド特有の山の香りがする。「秋になるとなあ、ウドの根元30センチくれえの所で刈って、肥料をやるんだ。そんなふうにして、あのウドは20年くれえ経つなあ」。丁寧な暮らしぶりは、そのまま料理に現れるのだろう。氷砂糖の控え目な甘さが、ふんわりと口の中に残った。
藤田キクエさんのウドの煮しめ
藤田キクエさん(右)と江端喜代子さん
 
 
 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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