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リトルヘブン
土地の香り 家の味 沼田イトさんと大野松子さんの煮込みうどん 何が何でも毎日うどん食べなきゃ太った麺はとろけるような舌触り
沼田イトさんと大野松子さんの煮込みうどん
沼田イトさんと大野松子さんの煮込みうどん
 かつては集落のどの家でも、夕飯はうどんと決まっていた。「私はさ、毎日夕方になると、上の畑から駆け下りて帰ってうどん作りしたよ」と沼田イトさん(86)が言えば、大野松子さん(77)が、「何が何でも、うどん食べなきゃって思ってたもんな」と相づちを打つ。貴重だった米は、朝一度だけ炊いた。今日は、久しぶりに懐かしの製麺機を引っ張り出してうどん作りのはじまりだ。
 「小麦粉を一升枡に一杯。いっつもその分量だったな」。粉をボウルに入れて、松子さんが水を加える。「柔っこきゃあ機械にくっついちまうよ」。イトさんが手で包み込むように粉を混ぜる。耳たぶよりも固い、ぽろぽろ落ちるくらいの固さだ。5、6個の塊(かたまり)に分けてから製麺機に通し、厚さ2ミリほどの帯状にする。続いてカッターに掛けて細切りにしたら麺は完成だ。「昔は、煮込みの具って言やあ、ホウレン草に白菜、シイタケくれえしか入れなかったけどよ、今日はせっかくだから沢山入れるべえ」。しめじ2パック、シイタケ6個、ネギ2本、大根3分の1本、玉ねぎ2個、鶏もも肉2枚、焼きちくわ1本が調理台に並ぶ。大鍋に水をたっぷり入れて火にかけ、櫛型切り玉ねぎと拍子木切りの大根を入れて少し煮たら、一口サイズにした鶏肉としめじ、シイタケ、斜め切りのネギとちくわを入れる。粒状の昆布出汁、醤油を少なめに入れて具に味を馴染ませる。野菜が柔らかくなったら、うどん投入だ。吹きこぼれないように火を少し弱め、7分ほど煮て麺がくったりしてきたら、醤油を追加して味を調え出来上がり。
沼田イトさん(左)と大野松子さん
沼田イトさん(左)と大野松子さん
 食べても食べても、麺は増える一方だ。これぞ、煮込みうどんの醍醐味。鶏肉の出汁がうどんに浸(し)み込み、どっぷり太った麺はとろけるような舌触り。夏バテした胃を優しく温めてくれる。「麺がトロトロになって、次の日が美味しいんだよ」と松子さん。「ご飯の上にかけて食べるんだよな」。イトさんも嬉しそうだ。料理を手伝ってくれた近所の皆さんと一緒に食べたら、10人前がすっかりなくなって、明日の分は残らなかった。
 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori