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リトルヘブン

風土に寄り添う

豊かな森で暮らしたい
姉崎一馬(写真家)

ぼくは全国各地の樹木や森林の写真を撮ることを仕事としている。公園や庭の樹木ではなく、野生の樹木、そして それらが集まった自然の森が対象である。天然の森というものは、陸上でもっとも繁栄した自然で、なかでも 人間の影響の少ない究極の森というものが原生林と呼ばれる。だが、日本でそうした本物の森はほんのわずかしか 残されていない。
都会で暮らしていたとき、いつかはそんな森の近くに住みたいと願っていた。全国の森を歩きながら候補として 上がった土地はたくさんあったが、何年もかかって、北なら山形県、南なら宮崎県という結論がでた。それぞれ 東北日本を代表する森、ブナの原生林を擁する朝日連峰と、南西日本の自然の究極、シイ、カシなどの常緑広葉樹 の森(照葉樹林)が残る九州中央山地があるからだ。

結局、学生時代から関わってきた、子どもたちの自然体験の施設を兼ねる住まいを建てることもあって、 山形県朝日町に至った。ここは、春は新緑が見事で、夏はそれなりに暑く、錦織りなす秋、そして しんしんと降り積もる雪の冬という絵に描いたような日本の四季がめぐる土地である。 森に包まれた山があり、渓流が流れ、田んぼや畑が広がり、毎日が自然の恵みのなかで暮らしていることを 実感できる。それは豊かな暮らしとは何か、ということを改めて考えさせられることでもある。 学校が長期休暇になる春、夏、冬には全国から子どもたちがこの環境を体験しに来る。自然の恵みと人の 暮らしの共生がはっきりと見える環境を知ることは未来の地球を生きる子どもたちにとって欠かせない 体験である。そして新しい「ふるさと」でもある。
好きな風景、居心地のいい場所、お気に入りの土地というものはだれにでもあるだろう。 そんなところで暮らせたらそれは「しあわせ」のひとつにちがいない。 ここの自然の豊かさはぼくにとって青い鳥の住む場所である。



あねざき・かずま
1948年、東京都生まれ。森林、樹木を中心とした自然を博物誌としてとらえる自然写真家。 現在、朝日町で子どもが自然を体験できる「わらだやしき自然教室」を主催している。 代表的な写真絵本に「はるにれ」(福音館書店)や、最近出版された「森はオペラ」(クレヨンハウス) などがある。

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
  Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Ito Naoe  Design:Hagiwara hironori