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リトルヘブン
いま、阿賀町で

前の晩から降り続いた雪が止み、青い空が広がっている。
「雪合戦しようぜ」。

運動場に出た誰かが叫ぶと、もう頭の上を雪玉が飛び交っている。 膝まである雪の中を大股で走って倒れ込む男子を見て、女子の歓声が上がった。 半袖Tシャツの男子もいる。

昼休み中の教室は賑やかで、「上着を着て外へ出ましょう」と校内放送で呼びかけていた先生の言葉など耳に入らなかったのだ。 阿賀町立鹿瀬中学校の全校生徒は29人。 そのうちの14人が3月5日に卒業を迎える。 残りの生徒たちは、4月より阿賀野川をやや下った阿賀町立津川中学校に通うことが決まっている。 この3月をもって、鹿瀬中学校が閉校するためだ。

「全部の子の名前を知っていたよね」という、学年を超えた交流が自慢の学校だ。 「ありがとう」と大きく書かれた校舎を背景に、皆で記念写真を撮る。真っ白い運動場が、いつの間にか穴ぼこだらけになっていた。 鹿瀬中学校最後の仲間たちの足跡だ。


リトルヘブン余禄
宮崎大学の経済地理学名誉教授から「現代日本は液状化社会」になっている、と聞いた。
液状化現象を簡単に言えば、地震の振動で、それまでは重力によって安定していた地表近くの砂質土が、地下水と混ざり合って液体状になる現象を指す。
つまり現代日本は、地球の重力にあたる共通の社会規範を失い、それぞれの地域、それぞれの世代、 それぞれの職業などが、自らの価値観だけに基づいて行動するため、多くの人びとに共通する人生観を失い、社会が芯を失っていると言うのだ。
郷愁ではなく、現在、営まれている各地の暮らしから学び、私たちがお互いに結び合える人生観を手にしたいと痛感した。
今号で紹介した阿賀野川上流域の暮らしが、その一助となれば幸いだ。
(リトルヘブン編集室:芥川 仁)

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