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リトルヘブン
伊藤和夫さん

都会の修学旅行生が
旧家で知る田舎の暮らし

「電話に出る時は、『はい、伊藤様です』って出るの。 むこうもさ、『伊藤様さんかい』って聞いてくんだわ」
伊藤和夫さん(71)の住む阿賀町の中村集落では、お互いに屋号で呼び合う。 近所には「といむさん」や「ぜんぱちさん」がいる。 伊藤家の屋号は「伊藤様」で、その由来は会津藩の時代にまで遡る。

蔵の軒先に吊された凍み大根
蔵の軒先に吊された凍み大根
「うちは代々地頭だったんだわ。 先祖が会津若松のお城で勉強してきて、この集落の人たちに勉学を広めたらしいのよ。 それに、裏の観音堂を守るっていう役目も与えられてたの。 そういうことで、伊藤様っていう屋号をもらったんだろうねえ」

和夫さんが、代々受け継いできた茶色く変色した古文書を見せてくれた。 地頭とは、今で言う区長らしい。
「近くに水沢って集落があるんだ。 そこに会津藩家老だった保科民部正興(ほしな・みんぶ・まさおき)の墓があるんです。 お家騒動に巻き込まれて、罪人としてこの地へ流されたらしいんだけど、最初は伊藤家を頼って来たんだわ。 うちは、会津藩と繋がりがあったからさ。 ところが、妻と赤子、四人の付き人と見張り役の足軽を伴っていた正興を、うちで面倒みることは出来なかったんだわ。 地頭って言っても、食べていくのに精一杯だ。 それで、伊藤家から分家してた半十郎が付き人になって、正興が亡くなるまでの四年間を水沢で面倒みたっていうことなんだあ」

和夫さんは、伊藤家の三十三代目にあたる。 「民部さま」と親しみを込めて呼ぶ正興の話を聞いて育ち、蔵に保存してあった古文書を一つひとつ読み解いてきた。

土蔵は今、梅干や味噌など、妻の律さん(66)が手作りしたものを保管する場所でもある。
ある時、味噌樽をひっくり返してみたら、底に「寛政八」と書かれてあった。 二百年以上前のものだ。山間部にある中村集落は、昔から雪に閉ざされる期間が長かった。 人々は、ゼンマイを乾燥させ、ワラビや筍を塩漬けにして保存する。 伊藤家では、今でも蔵のまわりに四百本近い大根を干し、玄米と麹で沢庵を漬ける。
三年もかける奈良漬は、律さん自慢の一品だ。
「ほほえみ会」で熱心に練習を重ねている銭太鼓を披露する律さん
「ほほえみ会」で熱心に練習を重ねている
銭太鼓を披露する律さん

毎日決まったように拝む仏壇と神棚に「伊藤様」の歴史がにじむ
毎日決まったように拝む仏壇と神棚に
「伊藤様」の歴史がにじむ
「美味しいって子供たちが食べてくれるのが嬉しくってさあ」

伊藤家は、数年前から田舎暮らしを体験する修学旅行生を積極的に受け入れている。 東京都や埼玉県から来る中学生だ。

「きかんぼうも来るさ。 そしたら、一対一でぐぐっと向き合ってさ、話すんだ。川遊びにも連れてくし、畑仕事も手伝ってもらう」
「子供たちを裏のお堂に連れてく時さ、縁結びの神様だっつうと、みんな我先にお参りをするんだわ。 なあに、あれはさ、会津藩が越後に攻め込む時、戦勝祈願して宿泊した観音堂なのよ」

春がくると、子供たちがまたやってくる。 律さんが作る「山菜の天ぷら」を食べながら、「どうして伊藤様なの?」と聞かれたら、和夫さんの出番だ。

文・阿部直美 写真・芥川 仁

新潟県東蒲原郡阿賀町のデータ
●人口/14,824人(2007年4月1日)、高齢化率/39.1%
●面積/95、288ha
●主要産業/農業
2005年4月に鹿瀬町、津川町、上川村、三川村の4町村が合併し、阿賀町に。

●阿賀町役場
〒959-4402  新潟県東蒲原郡阿賀町津川580番地
TEL.0254-92-3111

●阿賀町日出谷地区への行き方
○JR新潟駅から磐越西線で、日出谷駅下車。所要時間1時間25分  料金1,110円
○阿賀町役場付近からは新潟交通 観光バスで、津川・温泉入口バス停から乗車し日出谷駅前で下車。所要時間約40分 料金580円
阿賀野川の元船着き場から棒針山を望む
阿賀野川の元船着き場から棒針山を望む

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