小さな祠(ほこら)のある田んぼは、一番上の棚田の真ん中にある。
そこから下を眺めると、谷底に吸い込まれそうな迫力だ。
代掻(しろか)きを終えたその棚田を、笹岡富子さん(81)が見回りにきた。
一日に何度も、水の状態を見に来るのだ。
六十年前、嫁に来た時からそこにあった祠は、「八幡さま」と呼ぶ、笹岡家の先祖を祀る大切な社だ。
八畝(ようね)集落では、家ごとに「八幡さま」を祀っているが、田んぼの中にあるのは珍しい。
富子さんが、大切にしている写真を見せてくれた。女性たち八人が、早苗を手で植えている。
年老いて、女手一つで田の世話をするのに限界を感じた二年前、富子さんは「田んぼをやめよう」と覚悟を決めた。
その時、集落の女性たちが皆で田植えを手伝ってくれたのだ。
あの時は、土佐山田市に住む長男が、妻の病気入院で田植えの時期に帰って来られなかった。
でも今年は、田植えに帰って来ると約束してくれている。
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長男が田植えに帰ってくる日までに、 小さな田んぼは一人で植えておく |