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杉林に包まれた地蔵堂の境内で、遠くから参加の信者と八畝の住民が神妙にお経に聞き入る

川又の地蔵様は目に ご利益がある、 というので有名だ。

読経が始まると、三谷芳子さん( 63)はそっと目を閉じた。 彼女が毎年五月十四日に行われる川又の地蔵尊地蔵堂祭りに来るようになって四年目になる。
「不信心でね、隣りの集落なのに、地蔵堂がどこにあるのかもずっと知らだったですよ」。
芳子さんは、職場を定年退職する少し前、突然左目が墨を散らしたみたいに真っ暗になった。
「こりゃあ、信心もせにゃあかんって思って、地蔵堂に時々拝みにくるようになったんです。 ぎっちり治療して、信心もして、そしたら左目がゆがんでるけど見えるようになったんです」。

平家の落人西村掃部(かもん)が、松尾峠を越えて鉢ヶ森の北にある川又集落に来たのが、 文治年間(一一八五年〜一一八九年)と伝えられる。 背中に担いできた持念仏を祀るために建てたのが、この地蔵堂である。 「戦後十五軒あった川又集落に、今は誰も住んでおりません」と、お経を唱えていた定福寺住職の釣井龍宏(つるいりゅうこう)さん。 それでも、ムササビも駆け回るというこの杉山に地蔵堂を残したい、という近隣の人たちの思いは強かった。 今では、掃部の子孫と言われる八畝の西村家が中心となって地蔵堂を支えている。

お堂のすぐ東側で朽ちかけている直径四mを超える杉の切り株が、地蔵堂の長い歴史を物語っている。

語り部 三谷芳子さん
語り部 三谷芳子さん

ギンブロウ「なべもち」 TOP  1  2  3  4  5  6  7 「西村太郎さん」

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