楽しみ言うたら、お祭りと正月やったねえ。
「あっぱいご飯が食べられる」言うたもんよ。
白い米ちゅうことよ。
その時には、板の間にわざわざ畳を敷いてね、塩鯖にみかんやりんごを混ぜた寿司なんかのご馳走も作ったんです。
祭りの中でも、豊楽寺薬師堂の祭りは、特別じゃった。
その日には、男も女も一番ええ着物を着て、皆してぞろぞろ行きよった。
ご婦人方は、帯をお太鼓に結わえて羽織を羽織ってよ、うちわじゃなくって扇子をパコパコしながら、日傘までさしおった。
夏でぬくいのによ。あっぱいこっぱいお化粧して行きおった。あっぱいこっぱいちゅうんは、一番最高のってことよ。
薬師堂は、それはすごい賑わいで警察官まで来とった。
なかにゃ、悪徳商人もおったからねえ。冷やっこうて酸っぱいイチゴ水は一杯が十銭やった。
見世物小屋に入っても十銭。うちを出る時に、小遣いを五十銭もらうから、土産のひとつも買うて帰らにゃいかん。
村にはない珍しいもん、例えばキャラメルやら梨やら。月遅れじゃったけど「少年倶楽部」ちゅう雑誌も買うて帰った。
あの頃は橋がのうて、豊永で吉野川を渡るんに、渡し舟があったんや。
小遣いを全部使ってしもうて、帰りの舟賃一銭ものうなった子供もおったんや。
ああ、まっこと楽しい祭りじゃった。お薬師さまへ行かなかったら時代遅れになる言うて、病人以外はみんなが行ったもんじゃった。
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木陰で田植えの小休止。 前かがみの仕事では「背ミノ」が重宝 |