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リトルヘブン
 「正月には、必ず作るべや。鱈っ子は、今がちょうど盛りで、2月も末になりゃ、ぼつぼつねぐねる(なくなる)から、それまでに何回も作るんだ」。山口スガさん(75)と伊藤タカさん(69)は、ご近所の仲良しだ。今日は、子供や孫も好物だという真鱈の子を使った「ほろほろ」を作ってくれるという。
 「ごんぼ(ゴボウ)と人参っこを1本ずつささがきにしたらよ、ミョウバンさ入れた水にちょっと漬けると灰汁抜きになって黒ぐならね。糸こんにゃくを、1センチぐれえに切ったらフライパンで炒めてよ、次にごんぼと人参っこを入れるんだ」。鱈の子は、黒い皮を包丁の背で削ぐようにして身をほぐしておく。「おれ、かます(混ぜる)からよ、おめえ早くひれ(入れて)」。タカさんが野菜を混ぜ、そのフライパンにスガさんが少しずつ鱈の子を混ぜ入れた。「気ぃ短けえと駄目だ。ほろほろになるまで時間かかるからよ」。弱火で、鱈の子を撫でるように混ぜ合わせる。ねっとりしているうちに、味付けだ。「醤油さ入れるど、色っこが赤くなるべ、万能白つゆを小さじ1杯使うの。それと、うま味調味料を小さじ半分。塩は、小さじ2杯くれえ入れるべか」。市販の万能白つゆのかわりに、白醤油を使うこともある。「まだ、ほろほろになんねえ」「ひばよ(じゃあ)、おれがかます」。交替しながら炒めていると、茶色くねちっとした鱈の子の表面が、次第にぷちぷちと白く乾いてきた。全体的に、白くなったら完成だ。400グラム程の真鱈の子を使って、小鉢に8杯分くらい出来上がった。
 ほろほろっと、白いご飯の上にのせて食べる。噛みしめると、鱈の子がプチっと弾けて、ごぼうの香りが広がる。薄味で、鱈の子そのものの旨みが生きている。「おれは、鍋のこび(こげ)が好きだ」。タカさんが、茶色くこびりついた部分を削ぎ落としてくれた。お酒に合う珍味といったところで、こちらも止まらない旨さだ。
山口スガさんの「鱈っ子のほろほろ」
山口スガさん(右)と伊藤タカさん
 
 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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