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土地の香り 家の味 「バチ汁」 村上のぶ子さん(62)とろけて消える不思議な食感 寒い季節に小腹を満たす絶品

 「三味線の撥に形が似とるもんやから、素麺の端っこをバチ言うんですわ」。村上のぶ子さん(62)が見せてくれたのは、7センチ程の長さで、一方がやや幅の広い不揃いの素麺だ。「揖保の糸」で知られる地元の手延べ素麺は、上下の竹管にかけて引き伸ばして乾燥させる。商品にならない端っこのバチを使う料理が、バチ汁だ。「素麺屋さんが家で作りよったもんやけど、私らもバチが手に入ると、野菜たっぷりのバチ汁を作りよるんです」
 村上さんは材料を揃えに、包丁を持って納屋へ向かった。自家製野菜は、新聞紙に包んで段ボールに入れてある。数日前に、雪の中から掘り出したという白菜は、萎びた外葉を剥ぐと白く艶やかだ。大根もみずみずしい。用意するのは、干し椎茸3枚、玉葱2分の1個、ゴボウ2分の1本、ニンジン2分の1本、大根6分の1本、油揚げ2分の1枚、豆腐2分の1丁、白菜2枚。

具だくさんのバチ汁
具だくさんのバチ汁
 
村上のぶ子さん
村上のぶ子さん

 「椎茸を戻しとる間に、鍋に水を入れて昆布と鰹節でダシをとります。具はどれも、細切りやね」。煮立った鍋に玉葱とニンジン、大根、ゴボウを入れ、続いて戻し椎茸も細切りにして、白菜、油揚げも入れて煮る。最後に、豆腐と椎茸の戻し汁を加える。「バチは塩気が多いんや、まずはええ加減に味噌を入れますわ」。お玉に軽く1杯分の味噌をとって、汁に混ぜる。「バチは最後に入れなんだらひっついてまう」と、味噌が馴染んだら一気にバチの投入だ。100グラムほど入れた。「注意せんと、吹き上がってくるでね。火を弱めて、味見してみ。まだちいっと薄いから味噌を足して、薄口醤油も垂らすとええ」。火を止めると、ぷっくり膨らんだバチが汁に浮いている。お椀に8杯分程の量ができた。刻みネギをふっていただく。バチは口の中でとろけるような、一瞬で消えてしまう不思議な食感だった。
 「普通の素麺で作ることもありますか」と聞くと、「そりゃないわ。バチ汁はバチがある時のもん」。具だくさんのバチ汁は、寒い季節に小腹を満たすには最高の一品だ。

 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori