「三味線の撥に形が似とるもんやから、素麺の端っこをバチ言うんですわ」。村上のぶ子さん(62)が見せてくれたのは、7センチ程の長さで、一方がやや幅の広い不揃いの素麺だ。「揖保の糸」で知られる地元の手延べ素麺は、上下の竹管にかけて引き伸ばして乾燥させる。商品にならない端っこのバチを使う料理が、バチ汁だ。「素麺屋さんが家で作りよったもんやけど、私らもバチが手に入ると、野菜たっぷりのバチ汁を作りよるんです」
村上さんは材料を揃えに、包丁を持って納屋へ向かった。自家製野菜は、新聞紙に包んで段ボールに入れてある。数日前に、雪の中から掘り出したという白菜は、萎びた外葉を剥ぐと白く艶やかだ。大根もみずみずしい。用意するのは、干し椎茸3枚、玉葱2分の1個、ゴボウ2分の1本、ニンジン2分の1本、大根6分の1本、油揚げ2分の1枚、豆腐2分の1丁、白菜2枚。 |