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リトルヘブン
一日にして京まで駆け上る名馬を隠す 語り部 中田耕一郎さん(76)
一つ一つの石に番号を付けて図面をおこし、復元した石垣
お茶を飲みながら

 波賀城の石垣の下に立つと、この場所に城を建てた昔の人の思いがわかるようでしょ。急な斜面に大きな石をゴロゴロ落としたっていうんですから、敵陣もたまらなかったでしょう。  私が旧波賀町の町長になったのが昭和六十三年です。翌年、竹下内閣の「ふるさと創生事業」で、町に一億円が交付されることになった。使い道を問うアンケートを、中学生以上の町民全員にお願いしたんです。「波賀城を復元するのもええなあ」って意見が随分ありました。

中田耕一郎さん
中田耕一郎さん

 「馬隠しの伝説」いうんがあるんです。鎌倉時代中期の十三世紀頃、この城山に波賀城を築いた芳賀七郎光節は、一日にして京まで駆け上る名馬を持っておったそうです。ところが当時の亀山天皇が、それを召し出せ言うもんですから、七郎は城山中腹の穴ぐらに馬を隠しよった。結局、都からの兵に七郎は殺されたいう話です。伝説ですし、文献として波賀城のことはほとんど残っとらんのです。専門家に調査をお願いしましてね。崩れかけた石垣は、シノギ積みいう古い石積みの形式で、下の方の谷という集落から、石を皆で荷うてきたらしいとわかりました。石垣の石すべてに番号をふって図面におこして、復元をしよったです。ただ、城は復元できんかった。柱穴が三つしか出なんだそうで、これでは専門家でも復元は無理だというんで、まあ当時の山城はこんなに立派じゃなかったそうですが、「学習資料館」いうことで、城専門の設計しとる方にお願いしてこれを建てました。
 町民が、どこかへ出かけて帰ってきた時、城が見えると「やれやれ着いたわ」って気持ちになるとおっしゃいます。私の場合は、これを作るまで大変でしたから、いろんな思いが蘇って、別の「やれやれ」って気持ちになりますねえ。

 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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