「沢田ろうそくまつり」って名前付けたんは、相馬村の商工会がやるようになった二十年くれえ前でねえか。うちの孫が最初の巫女さんやったんで、覚えてるんだ。それまでは、何と呼ぶわけでもねえ、初詣と同じよ。沢田集落のみんなが、正月には、小さいろうそく持って岩屋堂の中にある神殿に立ててよ。小正月には、大きいろうそくさ岩肌に立ててくんだ。昔は旧暦だびょん。新暦の正月だば雪降らねえ時あってな、雪さねえと、正月って感じしねえもんな。
昔もな、小正月の前日には、みんなして神明様への道さ作ったの。どこさ道路か分がらねえ程、雪が降るからな。小正月の当日は、暗くなる前に一軒で一本、大っきいろうそく持ってお参りに行くんだな。今も同じだ。そいで次の朝、見に行くんだ。自分が立てた場所さ、分かるべ。流れたろうの形を、自分で判断すんだな。稲穂に似てるから豊作だとかさ。滝みてえにズーッと下さ流れてると、こりゃあ鉄砲水さ来んでねえかって。倒れて、ろうが垂れてねえと、今年は運が悪いからみんなして拝んで帰ろってな。まあ、適当よ。誰に教わったわけでねえ、それぞれが判断したんだもの。
よその人はよ、こんな雪さあるとこ、よく住んでるなあって思うんでねえかな。それがまた、いいとこもあんだ。三月になると、下からの熱で道路の雪道さ、口開いてくんだ。そうすっと、沢が音立てて流れてな。名前は分がんねえけどもよ、奇麗な鳥っこがなんぼでもいるの。りんご畑さ、剪定始まるべ。作業しながら、沢のサラサラって音と鳥の声さ聞いてるとな、ええなあって毎年思うんだ。