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リトルヘブン
小皿に盛られたきみえさんのネリクリ
小皿に盛られたきみえさんのネリクリ
「おばさん、唐イモ持ってきたとよ」。一人暮らしの渡辺きみえさん(89)の家に、近所の二見 峯子さん(78)、桜井洋子さん(74)、緒方敦子さん(89)がやって来た。毎週日曜日の午前中、 北俣小学校の校庭でグラウンドゴルフを楽しむ仲間だ。
今日は、皆して手拭いをきゅっと頭に結んで、包丁持参だ。「ネリクリ」作りの始まりである。 長さ20センチほどの唐イモが6本、皮むきが終わると、あっと言う間に5センチ大の乱切りになった。 それを沸騰する湯の蒸気で蒸して、柔らかくなるまでしばし待つ。 「昔は、砂糖なんかねえっし、唐イモの甘さだけだったもんな」。洋子さんが言うと、「餅搗き ん時に、このネリクリを作っちょったがな。搗きたての餅と、ふかした唐イモを練りたくってよ」 と、きみえさん。今日は、搗きたての餅のかわりに、水餅をタッパーから2つ取り出した。
正月に供えた鏡餅を、 水に浸して保存しておいたものだ。丸い餅を4つに切り分け、柔らかくなった唐イモの上に置いて、更に蒸す。餅がとろけて、唐イモと絡み合ってきたら火を 止め、大きめの鍋に移す。「冷えたらようつぶれんちゃから、急げよ」。塩ふたつまみと砂糖大さじ5杯を加え、すりこぎで唐イモと餅を混ぜ合わせて いく。餅の弾力で、次第にすりこぎの動きがゆっくりになる。ねっとりしてきたら、「ねりくり」 上がった証拠。直径40センチほどのしょうけ(平たいザル)に、黄な粉をたっぷりと敷きつめ、そ の上にネリクリをのせて完成だ。
小皿に取り分けていただいた。餅の粘りと唐イモのホクホクが一つになると、ぽてっとした舌ざ わりになる。まだ温かさが残っていて、唐イモの香りがふんわり口の中に広がる。
「こげに上手く出来たのは、皆のおかげじゃ。今日の日記に書かんとな」 きみえさんの満足気な顔を見て、みんながほほ笑んだ。
(左から)大塚鶴一さん、渡辺きみえさん、
緒方敦子さん、 桜井洋子さん、二見峯子さん
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori