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リトルヘブン
もう、かれこれ六十年も前になりますかな。法華嶽薬師の近くで、私が実際に聞いた話でございます。
かさぶたを患っておった和泉式部が諸国を放浪の末、法華嶽薬師に辿り着きました。そしてね、 平癒祈願の行を積み、ようやく治癒したんですわ。京の都へ帰ろうと、山を下り愛染川をちょう ど渡りきった時です。見知らぬかさぶたの老人と出会いました。
「わしを背負ってここを渡して下さらぬか」和泉式部は、その願いを断ったのでございます。帰心矢の如し、心はもう京都にあったのでしょ う。途端に、消えたはずのかさぶたが、ふたたび和泉式部の全身を被い、絶望の果てに、法華嶽へ 戻った和泉式部は崖から身を投げたんだそうです。ところがですな、水辺に横たわっていた和 泉式部に、ビキタン(蛙)が水を与え、蛍が周辺を舞い、生き返らせたっちゅう話です。 国富地方は、遊行僧らが歌念仏を唱えて仏の教えを広めた土地です。「和泉式部伝説」は、そん 人たちによって語り継がれたんでしょう。和泉式部のその後ですか。病気は治り、無事に 京の都へ帰ったらしいですわ。
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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