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リトルヘブン
夕方、餌をやった後で三根久美子さんが牛の運動場の
肥立て(フンの始末)をする
良く晴れた二月の初旬、三根正則さんと妻の久美子さん(51)は、薩摩原台地の畑で三百五十 本ほどの大根を引き抜いた。一本ずつ手洗いをする。でこぼこや傷の部分を、包丁で丁寧に削り取るのは米子さんの仕事だ。ラジオの歌番組を聞き ながら、小さな椅子に腰かけて手際よく仕上げていく。「ばあさん、やらんでいいよって言われても、猫よりましやっちゅうの。
休んどると、あんべ (体調)が悪うなるっちゃよ」大根を薄切りにするのも山に干すのも、イカンテ作りはすべて手作業だ。母と妻だけに任せるに は重労働である。
正則さんは悩んだ末に、二十七年間勤めた段ボールの会社を昨年辞めた。二年前 に亡くした父の跡を継ぎ、和牛の繁殖で生計を立てる決心をしたのだ。イカンテ作りは、冬場の貴重な現金収入になる。
近所に住む友人の徳永アイ子さん(90)が、生姜の味噌漬けを持って遊びに来た。「うちも、 (イカンテ干しが)やっと終わったとこだ」。二十三歳の時に戦争で夫を亡くして以来、ひとりで何でもやってきたというアイ子さんは、娘婿のイ カンテ作りを手伝っている。「キロ千二百円じゃったげな(だったそうだ)」「ほう、えかったわ」。米子さんとアイ子さんは、月に二回町営 のデイサービス八千代荘で過ごす。
友人の長友三郎さんを誘って、イカンテ作りの合間で「よくい」
(3時のお茶)をする
軽トラックの荷台に山積みの大根を、米子さんが一本一本、
洗う器械に入れていく
緊張の面持ちで「さゆり」の喉元を撫でる正則さん
「米子さんがよ、高見盛のマネをやるっちゃが、腹抱えてみんなで笑うっとよ」ふたりして笑い転げた。 昼を過ぎると、西風が出てきた。実をつけた日向夏の葉が、わさわさ揺れる。キンカンの木の周りで、光るものがあった。メダルだ。牛が描いて あり、「壱等賞」「優等賞」などとある。「死んだじいさんが品評会で貰ったんが、たんとあるっちゃよ」米子さんが竹箒作りをしている時、洗面器いっ ぱいに貯めてあったメダルを発見したという。磨いてみたらピカピカ光り、何かに利用できないかを考えた。 「さすがメダルだ、値打ちがあるっちゃ、鳥がつかん」
二月十日、生後八ヵ月の牝牛のさゆりを連れて、正則さんはJA宮崎中央主催の牛の品評会会場にいた。四十三頭の牝子牛と六頭の去勢子牛が 集まり、毛並みや肉付きの良さを競う。正則さんは緊張の面持ちで、さゆりの喉元をしきりに撫でていた。審査員がチェックシート片手に、さゆり の脇腹や首のあたりを指で押し、尻尾をつまむ。「俺の方がドキドキするわ。今回はだめじゃわ」。米子さんに「持ってけ」と言われた父の形 見の刷毛で、今日何度目かのブラシがけをしてやる。審査の結果は、優の三席だった。父亡き後に、自分で育てた初めての牛は、四十三頭中の三位を受賞した。
さすがに、初陣を飾ったこの記念すべきメダルが、キンカンの木にぶら下がることはないだろう。  「汚いまな板で美味しい料理は出来ないっちゃ」と言う正則さんは、今日も竹箒で牛舎内を掃き清め、綺麗なまな板の上で草や藁を混ぜ合わせ、牛へ与える。 イカンテ作りは、そろそろ終盤だ。皆が嫌がる霧島下ろしの冷たい西風が、ここ国富町の薩摩原台地では、恵みの風なのである。

文・阿部直美  写真・芥川仁
国富町名物「白玉まんじゅう」
人にあげたくなる土産物というのがある。他とちょっと違う、というのがいい。国富町名物の「白玉まんじゅう」は、そんな一品だ。レトロな 模様の包装紙を解くと、竹の皮に包まれた一口サイズの饅頭が12個きれいに並ぶ。つやつやした真っ白の饅頭の上に、南天の葉。開けた時、なん だか心華やぐのだ。材料はうるち米、小豆、砂糖と塩。無添加で、家庭の味といえる。口に入れるとねちっと弾力がある。こし餡が、甘すぎないの もいい。ただ、うるち米100%なので、次の日には固くなる。買ってすぐに手渡せることが条件だ。昼頃には完売することが多いので、お早めに。
●井戸川白玉まんじゅう店 TEL:0985-75-2061
●稲田白玉まんじゅう店 TEL:0985-75-3262
●井上白玉屋 TEL:0985-75-2646
●柚木崎菓子舗 TEL:0985-75-2076

宮崎県東諸県郡国富町のデータ

●人口/21,150人(2009年2月1日)
●面積/13.071ha 
 森林7.794ha 農用地2.494ha 宅地0.459ha その他2.324ha
●高齢化率/26.8%(平成17年)
●主要産業/
  第一次産業 22.5%(平成17年度)
  第二次産業 24.5%
  第三次産業 53.0%
●国富町役場
 宮崎県東諸県郡国富町大字本庄4800番地 
 〒880-1192
 TEL0985-75-3111
●取材地/国富町旭地区への行き方
 宮崎交通バスセンター「宮交シティ」から国富・綾線Bに乗り国富バス停へ。
 30分置きに運行。所要時間47分間 料金780円。国富営業所から、国富・西都線に乗り換え、旭村バス停へ。
 2時間置きに1本。所要時間30分間弱 料金530円。
大根引きをする三根正則さん夫妻

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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori