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リトルヘブン
 「永源寺の開山さんが中国からこんにゃくを持ち 帰りはってな、こん土地に広めてくれはったんや わ」。岸本照子さん(80)は、愛郷の森「こんにゃ く道場」で、谷郷ヨシエさん(71)と吉村貴庸子さ ん(78)と共に、特産品のこんにゃく作りを教えて いる。
 「ねちいやろ、包丁が滑るから気いつけや」。皮 つきのこんにゃく芋を柔らかくなるまで茹でた後、 皮を剥いて小さく切る。「芋をミキサーの3分の1 まで入れてや。8分目まで湯を注いでミキサーをオ ン」。潰れてドロドロになった芋をたらいにあけ、 残りの芋をまた同じ要領でミキサーにかける。3キ ロの芋をすべて潰す。「潰れた芋は、たらいに擦り つけるように両手でギュギュッと揉んでな」。しば らくすると手についた芋が糊のようになった。貴庸 子さんが15グラムの石灰を600ccほどの熱湯で溶き、 少しずつ上澄みを芋に加えた。さらに熱湯で溶いて 上澄みを加えていく。一気にこんにゃく特有の匂い がたちのぼり、白っぽい芋が濃い黄土色になり、続 いて灰色に変色する。 「こっからは、急がなあかんよ」。分離したこん にゃくを、手早く混ぜ合わせる。「型に入れる時は なあ、お母ちゃんが赤ん坊を懐に入れるようにな、 温かみを込めてぎゅうっとするんや。そや、あった かい手でぎゅうっとな。濡れた手でやると、ひっつ かんよ」木のヘラで1枚ずつ区切り、大釜の湯で煮ること 1時間弱。指で押してもへこまない、どっしりと重 いこんにゃく25枚が完成。
 斜め格子に切り込みを入れたこんにゃくを、ヨシ エさんがフライパンで焼く。自家製の山椒味噌、胡 麻味噌、ふきのとう味噌をつけていただいた。表面 はパリッとしているが、口の中で押し返してくるみ ずみずしい強さ。噛みしめる時に、山椒やふきのと うがふわっと香った。
 膨らんだポケットを叩いて「ふたっつ携帯持っと るんよ」と、照子さんが笑う。自分用とこんにゃく 道場用ふたつの電話を使い分け、「農の匠」「つけ もの こんにゃくインストラクター」の肩書を持っ ている。
 
岸本照子さんの「こんにゃくステーキ」
左から吉村貴庸子さん、岸本照子さん、谷郷ヨシエ さん
 
 
「虫の目 里の声」2 TOP  1  2  3  4  5  6  7 お茶を飲みながら
発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
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