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リトルヘブン
左から柴田恋さんと田井中芽衣さん
 甲津畑集落の狭い路地を歩いていて、ふたりの女 の子に出会った。「サワガニがおったの、ほら」。 抱えていた水槽に手を突っ込んで、小さな蟹をつま んで見せてくれた。「お寺の所にたくさんおるよ」 と言うので案内してもらうと、浄光寺の境内に沢が 流れていてひょいっと飛び降りる。「石の下に隠れ とるよ」。大きな石をひっくり返したが、今度は見 つからなかった。
 ふたりは甲津畑小学校に通う田井中芽衣さん (9)と柴田恋さん(10)だ。「サワガニの餌は」 と聞くと、「そのまま放っといても生きとった」と 答えてから、顔を見合わせへへへっと笑う。「キャ ベツかな」「去年ご飯粒あげたけど、水がめっちゃ 濁ったなあ」。考えた末に、「1年の先生が蟹のこ となんかをよう知っとるから、聞いてみよ」と落ち 着いた。
 燕の飛び交う家の軒先を、ふたりはスキップする ように通りぬけて帰っていった。
読者からの便り
 なつかしい竹打ち行事。本当に見るもんでねえ、 かたる(参加する)もんだ。しかし、おっかねえも んだ。本当にめった打ちになるぞ。若い頃参加した こともあり(50年位前)記事全体の匂いも良かっ たなあ。
 東京都足立区 I・K(78)
 子どもの頃、田植えといったら朝早くから晩ま で。昼食はいつも畦で、おにぎりと塩辛い鮭の焼き 物とお漬け物だけでした。今頃は体に良いものづく しで幸せと感じます。
岡山県岡山市 N・I(68)
 幼き頃、母の実家は縦に長い家で部屋数がいくつ もあり、毎年、蜂蜜屋さんが蜜採りの時期になると 部屋を借りていて、そのお礼に一升ビンに入った蜂 蜜をいただいた。ビンの半分以上だったか、白く 濁った液を箸の先でかき回し、溶けてくると、その 箸の先を口に入れていました。白くドロッとしてザ ラッとした食感…。あの蜂蜜の甘さ、美味しさは今 でもしっかり覚えています。
東京都太田区 Y・Y(61)
 なかでも「お茶を飲みながら」が好きです。とい うのは小学校で読み聞かせのボランティアをやって いるのですが、民話も読むことがあるので、これは いいです。その土地の言葉で語られているので、ア クセントは違うんだろうなあと思いながら、子ども たちの前で話しています。
福岡県北九州市 K・T(48)


リトルヘブン余録
 甲津畑集落の農家が米を作る長谷の棚田は、里山 の谷を利用して緩やかな段差で造られている。里山 と棚田の境を歩くと、所々に小さなため池がある。 ため池と言っても、洗面器ほどの大きさから三畳間 ほどまで様々だ。
▼それぞれのため池が接する里山 の斜面には、必ず小さな素掘りの穴が掘ってある。 地元でマンボと呼ぶ、里山から染み出す湧水を集め るための穴だ。
▼橋本善一さん(68)の話による と、以前は、昼食時に、このマンボの水を沸かして お茶を入れたそうだ。近くに植えてある茶の木から 摘んだ生の葉を、そのまま急須に入れ、湯を注いで 淹れたお茶だ。自然の恵みを大胆に味わう野趣に、 かえって贅沢さを感じる。
▼本来、マンボというの は、灌漑用の素掘りの横井戸を指すのだが、ここで は集水機能を持つ穴をそう呼ぶ。ため池から細い水 路が、網の目のように下流へ向う。拳より大きめの 石を、水口に置くか置かないかで、田んぼの水量を 微妙に調整しているのだ。
▼マンボの傍に座って耳 を澄ますと、ピチピチと清水の滴る音が聞こえた。 棚田を拓いた甲津畑集落の先祖も同じ音を聞き、豊 作を確信したことだろう。
(リトルヘブン編集室:芥川 仁)
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