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リトルヘブン
コトコトと大豆炊いて、味噌づくり 焼き芋のおまけがついてお喋りの花
後藤文子さんが出してくれたお茶受け
後藤文子さんが出してくれたお茶受け

  「白石はのんびりしすぎとるっていうんかな。暇があったら、近所に行ってしゃべくるかってみんな思うとるんよ。矢部茶で熱心に商売しよる集落もあるばってん、ここは昔っから自家用にしか茶を栽培しとらんたい」
 義光さんの妻、美冶子さん(68)が小松菜の白和え、カボチャと大根の煮しめをお茶うけに出してくれた。旬の野菜料理を小皿に盛って、ひとり分ずつ小盆でもてなすのが、この地方のお茶うけの作法だ。

 
差し水をしながら1日かけて大豆を炊く
差し水をしながら1日かけて大豆を炊く

庭の茶葉を摘み、近くの茶工場で加工してもらった安達家の茶は、苦みがなく果実のような香りだ。道の上側に住む後藤文子さん(81)が、焼き芋をひとつ持って来た。
 「うまかか知らんが、火ぃ燃やしよるけん焼いたんよ」
 文子さんは、薪をくべた竈で大豆を炊いていた。味噌にする大豆は、丸一日コトコトと炊くのがいい。それを一日置いてから、自家製の米麹と合わせる。文子さんの味噌作りは焼き芋のおまけがついて、それを届けた先でお喋りの花が咲くというわけだ。

 
隣家の炭火炬燵に肩まで入ってくつろぐ連君
隣家の炭火炬燵に肩まで入ってくつろぐ連君

 小学二年生の大隈連君にも、お喋り友達がいる。学校から帰るとすぐに宿題を済ませて、「ばあさん」と呼ぶ隣の藤田やすえさん(82)宅に行くのだ。炭火の掘り炬燵に肩まで入って、貰ったアイスキャンディーを舐める。
 「ばあさん、時計はどれが合うとっと」
 「時計はどれも合うとらんもん」
 そんな会話をしながら二人で仲良くテレビを見ている。家の薪ストーブとはひと味違う温かさだ。
 「ばあさんな、雷が鳴りよった時、うちん来てご飯まで食ぶっとたい」
 連君が、隣同士の家族のような付き合いを暴露した。苦笑いしているやすえさんには、隣家の四人兄弟が可愛くてたまらない。

 
朝日にススキが輝く   冬の田でナツアカネが産卵
朝日にススキが輝く   冬の田でナツアカネが産卵
(上がオス・下はメス)

 白石地区を歩く。玄関先に広げられた青いシートで、日差しを浴びた小豆が光っている。終わりかけの白い茶の花、カラスウリの橙色。銀色に輝くススキ。集落が色を纏うなかで、遠く九州山地の尾根は青く深い。
 「だご(団子)なぐるは餅なぐるって、昔の人は言うとった。なぐるは、投げる。団子さやったら、餅がかえってくる。持ちつ持たれつですたい」
 後藤順子さん(71)が教えてくれた言葉が、炭火炬燵のように、じんわりと胸の奥を温めてくれる。


 
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発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori