TOP
リトルヘブン
家の味「おしよせ」後藤順子さん(71)野性的な青臭さで、滋味沁みる

 年4回行われる白石天満宮の祭りでは必ず用意される「おしよせ」。「腹もちがええから、昔、萱屋根を葺きよった時に、お釜さんにたっぷり作って皆に振る舞いよったわ」と、懐かしむ後藤順子さん(71)。集落の誰もが認める料理名人は、真っ赤な長靴に履き替えて畑へ行くと、里芋と大根を抱えて帰ってきた。おしよせ作りの始まりだ。
 里芋小2個、人参2分の1本、大根6分の1本、戻した干しシイタケ小7個、ひと晩水に浸しておいた大豆1合、もち米1合を準備する。「里芋、人参、大根、シイタケは、どれも短冊切りにしとって、鍋に油をひいて具を炒めるとです」。シイタケの戻し汁と水を、具がタプタプになるくらい入れて柔らかくなるまで煮る。「こん時、具が柔らしくなっとらんといかんの。そしたら、もち米入れて落とし蓋で煮ます。弱火で30分もあれば充分たいね」。その間に、すり鉢で大豆をすりおろす。「最近はミキサーも使うばってん、すり鉢のほうがおいしいと思うわ。少し豆が残るくらいがよか」。バチバチと音をたてて潰れていた大豆が、次第に白くねっとりとしてきた。
 もち米が柔らかくなったのを確認して、8割がた潰れた状態の豆を鍋に入れる。「こっからは焦げ付くけん、手早く練らんと」。しゃもじでかき混ぜること10分間。動かす手が重くなる。

おしよせ
おしよせ
 
畑から材料の大根を収穫する後藤順子さん
畑から材料の大根を収穫する後藤順子さん

 「みりん大さじ1杯、市販の白ダシ大さじ2杯。味付けはお好みでよかたい」
刻んだネギをふりかけて、4人分のおしよせが出来上がった。熱々を手にのせて味見すると、野性的な青臭さとふんわり漂う甘い香りがする。もち米の吸い付くような柔らかさと、大豆の歯ごたえのバランスもいい。
 「生前お父さん(夫)が好物だったけん、年に3、4回はしよったの。鍋ん中覗きながら、まだあん(る)ね、明日もあん(る)ねって、子どもが飴玉を楽しみにするみたいに喜んで食べよったわ」
 久々に作ったという順子さんのおしよせは、滋味が体に沁みた。
 「生前お父さん(夫)が好物だったけん、年に3、4回はしよったの。鍋ん中覗きながら、まだあん(る)ね、明日もあん(る)ねって、子どもが飴玉を楽しみにするみたいに喜んで食べよったわ」
 久々に作ったという順子さんのおしよせは、滋味が体に沁みた。

 
「虫の目 里の声」2 TOP  1  2  3  4  5  6  7 お茶を飲みながら
発行:株式会社 山田養蜂場  編集:(C)リトルヘブン編集室
Photography:Akutagawa Jin  Copyright:Abe Naomi  Design:Hagiwara hironori