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屋敷の門口まで見送ってくれた入道忠靖さんと
昭子さん夫妻
入道家には玄関が三つある。下手に普段家族が出入りする玄関があり、真ん中は来客用、上手の玄関は「上玄関(かみげんかん)」と呼んで、冠婚葬祭の特別な時に使う。「私は嫁に来た時に上玄関から入ったけど、お父さんは一度も使ったことないんや。そやから、葬式すっ時はそっから出してあげるよ、言うとんの」。昭子さんが豪快に笑うと、「ずっと住んでおっても、一度もあっこから靴脱いで入ったことないが」と、温和な忠靖さんが応じた。 ![]() 入道家の南側にある庭と屋敷を囲む杉のカイニョ
昭子さんが嫁に来た時、入道家では水稲とチューリップの栽培で生計を立てていた。「なんせ当時は、球根植える時に定規を当てて一球ずつ手植えしとったし、掘り起こした球根を洗うんも、夜中の十二時までかかって手作業でやっておったがです」と忠靖さん。 ![]() 入道家の屋敷裏の麦畑 ![]() 奥座敷の天井板に描かれている「睨み龍」 「当時、加賀藩主が使うな言うておったケヤキを使って、この大きな家を建てた先祖いうのは、どんな思いやったのか。その意気込みを考えると、守らにゃいかん思うし、何とかなるもんですわ」。工場経営をしながら、忠靖さんは庄西用水土地改良区の理事長を務め、農事組合の立ち上げにも力を注いできた。根底にあるのは、先祖が築いた集落を守りたいという強い思いだ。 ![]() 結婚した当時を思い出して
楽しげに語る昭子さん 「昔、娘ふたりに言うたの。彼氏にするなら、お父さんより小さい手の人は駄目やよって」。昭子さんが見惚れた忠靖さんの手は、分厚くて大きい。「お父さんの手は働く手や」。忠靖さんが照れてはにかんだ。
文・阿部直美 |
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